プレスリリース
Convergent losses of arbuscular mycorrhizal symbiosis in carnivorous plants
Héctor Montero, Matthias Freund, Kenji Fukushima(福島健児)
New Phytologist (2025) DOI:10.1111/nph.70544
陸上植物の祖先は4億5000万年ほど前、リン酸吸収を助ける真菌(カビ)の一種「アーバスキュラー菌根菌(AM菌)」との共生を始め、今でもほとんどの陸上植物が共生関係を維持しています。一方、食虫植物は昆虫などを捕食し、リン酸を含む栄養を得ています。両者はともに無機栄養をより多く取り込む機能が共通していますが、AM菌共生と昆虫捕食が両立するかどうかは不明でした。
この点を明らかにするために、本研究では、AM菌との共生に欠かせない遺伝子群が、共生能力の喪失に伴い、植物ゲノムから失われやすいことに着目しました。食虫植物を含む多様な植物のゲノムで、AM菌との共生に必須の遺伝子の有無を調べて共生能力を予測し、菌根菌の接種実験で検証しました。その結果、ほとんどの食虫植物で共生遺伝子がなくなり、共生能力が失われていることが分かりました。食虫性は複数系統で独立して進化しており、実験対象の多くで共生能力の喪失が見られました。そのことから、食虫植物の進化と共生の喪失が偶然に同じ時期に起こったわけではなく、原則として両立しにくい関係にあることが示されます。最も若い食虫植物系統とされる南米原産の「ブロッキニア・レデュクタ」では、多くの共生遺伝子を保持しながら共生能力は著しく低下しており、喪失の初期段階にあることが示唆されました。これらの結果は、植物の栄養獲得戦略が、進化の過程で切り替わる仕組みを明らかにする手がかりになります。
写真:南米ギアナ高地のロライマ山に生育する食虫植物ブロッキニア・レデュクタ(Andreas Fleischmann博士提供)