2025/04/25

クロマチン構造のパラダイムシフト

前島研究室・ゲノムダイナミクス研究室

The shifting paradigm of chromatin structure: from the 30-nm chromatin fiber to liquid-like organization

Kazuhiro Maeshima

Proceedings of the Japan Academy, Series B (2025) DOI:10.2183/pjab.101.020

クロマチンの構造と動態は、転写やDNA複製・修復といったゲノム機能を担う上で、極めて重要です。これまでクロマチンは、30 nm線維を基本単位とし、より大きならせん構造へと階層的に折りたたまれるというモデル(階層構造モデル)が広く受け入れられ、生物学の教科書にも掲載されてきました。

しかしこの15年間で、遺伝研の前島一博教授らによる研究をはじめとする多くの成果により、この従来の見方は大きく変わりつつあります。現在では、ヒトなどの高等真核細胞内のクロマチンは「液体のようにふるまう凝縮ドメイン(液体様ドメイン)」を形成しており、これが30 nm線維に代わる基本構造単位であると考えられています。

この液体様ドメインは、転写や複製などDNA反応に必要なアクセス性を保ちつつ、適切なゲノム機能を支える役割を担っています。本総説では、生細胞中におけるクロマチンの物理的性質に焦点をあて、「局所的には流動的、染色体全体としては安定している」という粘弾性的なふるまいがクロマチン機能を支える鍵であることを考察しています。

本研究は、日本学術振興会 科研費(JP23K17398、JP24H00061)、先進ゲノム支援(JP22H04925、PAGS)、および武田科学振興財団の助成を受けて実施されました。

図:DNA、ヒストン、ヌクレオソーム、クロマチン
(A) 負に帯電したDNA(赤)。(B, 左) 正に帯電したコアヒストン八量体(黄色)。(B, 右) 1.9 Å分解能で決定されたヌクレオソーム構造。合計10本のヒストンテール領域(IDRs)がヌクレオソームコアから外側に伸びている。テール領域中の塩基性残基(リジンおよびアルギニン)はオレンジ色で示され、アスタリスクはリジンのアセチル化部位を示す。(C) 連なったヌクレオソーム(10-nm線維)。線維全体が負に帯電している。(D) 30-nmクロマチン線維が階層的に折りたたまれた古典的モデル。(E) クロマチンドメイン内で不規則に折りたたまれた現在のモデル。(F) 核内では、染色体がテリトリーに応じて異なる色で示されている。図はIde et al. (BioEssays 2022)より改変して使用。


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