2024/09/17

動植物において雑種異常を引き起こす原因遺伝子を網羅的に分析

北野研究室・生態遺伝学研究室

Causative genes of intrinsic hybrid incompatibility in animals and plants: What we have learned about speciation from the molecular perspective

Kitano, J. and Okude, G.

Evolutionary Journal of the Linnean Society (2024), kzae022 DOI:10.1093/evolinnean/kzae022

生態遺伝学研究室の北野潤教授と奥出絃太研究員は、これまでに動植物において雑種異常を引き起こすとして報告されている原因遺伝子をリスト化し、どのような傾向がみられるかを調べました。本成果は、リンネ協会発行のEvolutionary Journal of the Linnean Societyの種分化特集号に掲載されました。

雑種異常は、種分化すなわち集団間の遺伝子流動が低下する過程において重要な役割を果たす生殖隔離機構の一つになりえます。これまでに雑種異常を引き起こす遺伝子が複数報告されており、特定の分類群に限った総説はあったものの、雑種異常を引き起こす遺伝子の全貌をまとめた総説はありませんでした。そこで、2024年の8月時点で報告されていた動物23例、植物72例を本総説でリスト化し、どのようなパターンが存在するかについて考察しました。

その結果、動植物に共通してその大半の事例で、個体の適応度とは無関係に同じ個体の別の遺伝領域を出し抜いて増幅あるいは次世代に伝達するような利己的遺伝子の作用(このような現象をゲノムコンフリクトという) が重要であることが示唆されました。

一方で、動植物間には違いもあり、植物では雑種の自己免疫反応による成長異常やミトコンドリアのキメラ遺伝子による雄性不稔の事例が多く報告されていますが、動物ではこれに該当するような明らかな事例はまだ見つかっていません。この動植物間の違いは免疫システムの違いやミトコンドリア遺伝子間の組換えの起こりやすさの違いに起因しているのかもしれません。また、動物ではX染色体に座乗する雑種異常に関与する遺伝子の報告が多数ありましたが、植物ではまだありません。これは、そもそも植物では性染色体をもつ種が少ないことに起因していると思われました。

動物の研究はショウジョウバエ、植物の研究はイネとシロイヌナズナに大きく偏っており、これらを定量的に検証して普遍的なパターンを見出すためには、より多様な分類群、特に野生生物に関するさらなる研究が必要と思われます。そこで、生態遺伝学研究室では、日本産トゲウオをモデルにして、この課題に現在取り組んでいます。

本研究は、科研費・基盤S、JST・CRESTなどの支援を受けて実施しました。


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