2020/08/04

微細藻類の一日
~真核光合成生物の増殖機構の理解に向けた日周-細胞周期トランスクリプトームデータベースの構築~

Relationship between cell cycle and diel transcriptomic changes in metabolism in a unicellular red alga.

Takayuki Fujiwara, Shunsuke Hirooka, Ryudo Ohbayashi, Ryo Onuma, and Shin-ya Miyagishima.

Plant Physiology (2020) 183: 1484–1501 DOI:10.1104/pp.20.00469

水圏では様々な系統の微細藻類が光合成を行っており、一次生産者として重要な役割を果たしています。近年、再生可能エネルギー、タンパク質源として藻類バイオマスの活用が注目されている一方で、水域の富栄養化によるプランクトンの異常発生(アオコの発生や赤潮など)など生活環境や水産業への被害も問題となっており、その増殖機構を知ることは重要です。

微細藻類は光合成によって増殖しますが、自然環境には昼夜があり、光合成のできる時間帯は昼間に限られています。一方で、多くの微細藻類は夜間にDNA複製と細胞分裂(細胞周期進行)を行うことが知られています。しかしながら、微細藻類が一日の中で、どのように効率よく光合成を行い、どのような分子基盤で細胞分裂を行うのか、という基本的な問題は意外にもほとんど理解が進んでいません。

この問題を解決するために、本研究では、微細藻類の日周におけるトランスクリプトーム変動解析を行いました。また、モデル藻類として単細胞紅藻Cyanidioschyzon merolae(シゾン)を用いました。C. merolaeは遺伝子数が真核光合成生物の中で最少クラス(16 Mb, 約5,000遺伝子)で、解析対象となる遺伝子セットが極めて少なく様々な実験に有用です。解析の結果、昼間には多くの主要代謝系(炭化水素、アミノ酸、ビタミン合成など)の遺伝子群が一斉に誘導されること、一方で夜間には解糖系に関連する一部の遺伝子群やdNTP(DNAの材料)新生に関わる遺伝子群が誘導されることがわかりました。この結果は昼間に光合成を行い細胞生長し、夜間に細胞周期進行することをよく反映しています。代謝遺伝子群の変動の詳細は、論文のサプリメントデータで見ることが出来ます。

また、細胞周期に依存する遺伝子発現を日周期によるそれと区別するために、細胞周期制御タンパク質(CDKAやRBR)の変異体を作成し、トランスクリプトーム変動解析を行いました。その結果、既知の細胞分裂関連遺伝子群とともに、細胞周期に依存する機能未知遺伝子群を見つけることが出来ました。これらは、藻類の細胞分裂に関わる新規遺伝子群である可能性が高いと考えられます。

本研究で樹立した遺伝子発現データベースは、微細藻類の日周における基本的な細胞動態の理解にとどまらず、将来的には、代謝改変によるバイオマス生産の増大、プランクトンの異常発生の予測や対策などに役立てることが出来ます。

本研究は、科学研究費補助金(17H01446、18K06300、20H00477)、JST未来社会創造事業などの助成のもとに実施されました。

Figure1

図:真核微細藻類の一日。真核微細藻類の多くは、昼間光合成によって成長し、夜間DNA合成と細胞分裂を行う。これを反映するように多くの代謝遺伝子の発現は昼に上昇する。一方で、DNA複製や細胞分裂関連遺伝子は細胞周期に依存して夜間に発現する。


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