種の壁は絶対か?

Patterns of genomic divergence and introgression between Japanese stickleback species with overlapping breeding habitats.

Ravinet, M., Kume, M., Ishikawa, A., and Kitano, J.

Journal of Evolutionary Biology 2020 Jun 17. DOI:10.1111/jeb.13664

種分化は、ダーウィンの時代から現在まで続く「謎中の謎(mystery of mysteries)」です。種分化とは、一般的に「生殖隔離の進化」と定義されます。生殖隔離は、有るか無いかの二択ではなく、より正確に言うと「遺伝子流動率の低下」のことであり、連続的なものです。種の間に存在する生殖隔離とは、一体どの程度固定的なもので、どの程度流動的なものなのでしょうか?

生態遺伝学研究室とノッティンガム大と京都大学の共同研究チームは、日本に生息するトゲウオを利用してこの問いに挑み、その成果をヨーロッパ進化学会の刊行するJournal of Evolutionary Biologyに発表しました。

北海道の東部では、イトヨ(Gasterosteus aculeatus)とニホンイトヨ(G. nipponicus)という67万年くらい前に分岐したトゲウオ2種が生息しています。これら2種は、野外で見つかる雑種は少なく、ゲノム全体での配列の違いも大きいことが生態遺伝学研究室によって示されています。雑種が少ない一つの要因は、イトヨは川の上流、ニホンイトヨは川の下流で産卵するというように、産卵場所をうまく分けていることにあります。このたび、生態遺伝学研究室は、小河川の中で、ほぼ同じ場所でこの2種が生息している集団の全ゲノム解読を行い、遺伝子流動率などを解析しました。

その結果、この小河川では、2種間のゲノムレベルでの違いが明らかに低下しており交雑が進んでいることが分かりました。しかし、それでも別々の2種としてたしかに存在しており、種が均一化する現象、いわゆる逆行種分化(speciation reversal)は進行していませんでした。

トゲウオでは、生息地の人為的撹乱によって逆行種分化が生じた例がカナダで報告されており、今後は、どういった要因があれば生殖隔離が維持されて逆行種分化が生じないのか、どういった要因があれば逆行種分化によって種の壁が崩壊するのか、その要因に迫っていきます。

本研究は、科研費の支援を一部受けました。なお、筆頭著者のマーク・ラビネイ研究員は、生態遺伝学研究室の博士研究員として2年間ほど遺伝研で研究していました。

  • 筆頭著者マーク・ラビネイ研究員、遺伝研在籍時のインタビュー記事はこちら
Figure1

図:イトヨ(上)とニホンイトヨ(下)


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