2020/07/06

オスとメスの違いは、性染色体が生み出すのか、ホルモンが生み出すのか。

Differences in the contributions of sex linkage and androgen regulation to sex-biased gene expression in juvenile and adult sticklebacks.

Kitano J, Kakioka R, Ishikawa A, Toyoda A, Kusakabe M.

Journal of Evolutionary Biology 2020 Jun 13 DOI:10.1111/jeb.13662

動物のオスとメスの違いにおいて、性染色体の果たす役割が、発生・発達・成長段階で大きく変わるということを生態遺伝学研究室が解明し、ヨーロッパ進化学会の刊行するJournal of Evolutionary Biologyに発表しました。

動物のオスとメスは、見た目や行動など多くの点で違いがあり、性的二型と呼ばれます。例えばトゲウオ科のイトヨは、稚魚の時はオスとメスで見た目や行動に違いは見られませんが、成魚になるとオスは婚姻色を呈し縄張りを持ち求愛行動を示します(図1)。一方、メスはそのような色や行動を示しません(図1)。イトヨの性的二型は、チャールズ・ダーウィンが性淘汰(繁殖の成効率が個体間で違うことに着目した進化の理論)という概念を構築したり、ノーベル賞を受賞したニコ・ティンバーゲンが動物行動学(動物の行動を科学的に研究する学問でエソロジーとも呼ばれる)という学問分野を開拓したりするのに役立ってきました。

脊椎動物では、このような性的二型を生み出すメカニズムに、性連鎖(性染色体に原因遺伝子が座乗していること)と性ステロイド(アンドロジェンなど)による遺伝子発現制御があります。性染色体が性的二型を生み出すのか、ホルモンが性的二型を生み出すのかは、進化生物学における論争の種となってきました。

本研究チームは、脳のトランスクリプトーム(ゲノム中の全遺伝子の発現)の性差における性連鎖とアンドロジェン応答の役割を解析しました。その結果、稚魚に比して成魚では、性差を示す遺伝子の総数は増えますが、性差における性連鎖の相対的な貢献度は著しく低下しました。代わりに、アンドロジェン応答の役割が増加しました。これは、アンドロジェンの量がオスの成魚でのみ高まる知見と合致しています。この様子を模式図として示すと図2のようになります。

性染色体の役割が、発生・発達・成長段階で変化していくということは、あたり前のようだけど誰も着目しなかった部分であり、見逃されていた部分に着目しゲノム技術を用いて検証したという独自性の高い視点について高く評価して頂きました。

本研究は、生態遺伝学研究室が中心となり、比較ゲノム研究室と静岡大学との共同研究として行われました。日本学術振興会の科研費と遺伝研共同利用の支援を受けました。

Figure1

図:成熟したオス(上)とメス(下)の頭部

Figure1

図:性染色体とアンドロジェンの役割の違いを示した模式図


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