植物が諸刃の剣である活性酸素の発生範囲を限定する仕組み

SCHENGEN receptor module drives localized ROS production and lignification in plant roots

Satoshi Fujita, Damien De Bellis, Kai H Edel, Philipp Köster, Tonni Grube Andersen, Emanuel Schmid-Siegert, Valérie Denervaud Tendon, Alexander Pfister, Peter Marhavý, Robertas Ursache, Verónica G. Doblas, Marie Barberon, Jean Daraspe, Audrey Creff, Gwyneth Ingram, Jörg Kudla, Niko Geldner

EMBO J (2020)e103894 DOI:10.15252/embj.2019103894

活性酸素種は生物種を問わずいくつもの局面において重要な生理的機能をもつと考えられているが、その反応性の高さから活性酸素種のターゲット分子を明確に決定することは非常に困難である。しかしながら植物においては、単量体のリグニンがペルオキシダーゼの活性によって重合する過程で活性酸素が必要であることが知られている。リグニンはその物理的特性から、高等植物を機械的に支える機能が特に注目されるが、その高い疎水性から拡散バリアとして機能することも知られている。本論文では、根における拡散バリア(カスパリー線)の形成時に活性酸素種の生産をマイクロメーターオーダーの領域で活性化する受容体シグナル経路を報告した。

カスパリー線の適切な形成には受容体キナーゼ(SGN3)およびそのリガンドである分泌ペプチド(CIF) (参照:Research highlight 2020/01/22)、細胞膜に極性をもって局在するキナーゼ(SGN1)およびNADPH oxidase(SGN4/RBOHF)などがこれまでに知られていた。そこで分泌ペプチドであるCIF2で植物を処理したところ活性酸素の産生が亢進されたことから活性酸素種を産生するNADPH oxidaseがペプチドシグナルの下流であることを強く示唆した。生化学的解析によりSGN3/CIF2受容体ペプチド複合体からSGN1、NADPH oxidaseをつなぐリン酸化経路の存在が示された。

また、活性酸素種は非常に空間的に限定されて産生されていることから、この経路の空間的制御に関して検討したところ、SGN1の極性を持った局在がマイクロメーターレベルでの限定化に寄与していることを明らかにした。さらにこの経路は細胞膜上での活性酸素種の発生だけではなく、大掛かりな転写変化を介して根における拡散バリアの構築に寄与していることも示した。これらのデータはDoblas et al. (2017)で提唱された”Surveillance model”によるバリア形成機構を強く支持する。本研究では細胞でのシグナル伝達が器官レベルにわたる構造の連続性を保障することを示した。

本研究はローザンヌ大Prof. Niko Geldnerのグループにおいて藤田智史 博士(当時ローザンヌ大博士研究員、現遺伝研博士研究員)を中心としてローザンヌ大イメージングファシリティー、電子顕微鏡ファシリティー、ゲノミクスファシリティー、スイスバイオインフォマティクス機構、ミュンスター大Prof. Jörg Kudla、ENS リヨンのDr. Gwyneth Ingramの共同研究として行われた。

本研究はSNFグラント (9731003A_156261 and 310030E_176090 (N.G.))、ERCグラント (616228-ENDOFUN, N.G.), DFG grant (Ku931/14-1 (J.K.)) FEBS long-term fellowship (P.M.), EMBO long-term fellowship (R.U., M.B.), Marie Curie postdoctoral fellowship (T.G.A,), Fundacion Alfonso Martin Escudero fellowship (V.G.D.) 日本学術振興会海外特別研究員制度(S.F.)の援助により行われた。

Figure1

図:植物の根にはカスパリー線と呼ばれる小分子に対するバリアが形成される。この構造の適切な形成にはマイクロメーターレベルでの活性酸素(ROS)の産生(電顕写真)が重要であり、非対称なシグナルの活性化(モデルを参照)により局所的なリグニンの蓄積が可能になる。

  • RNA seq data(CIF2ペプチドによる転写レベルでの変化)
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