マウスが黒毛になるしくみ、四半世紀を経て解明 ―江戸時代の愛玩用ねずみから受け継がれた遺伝子―

Press Release

Nested retrotransposition in the East Asian mouse genome causes the classical nonagouti mutation

Akira Tanave, Yuji Imai, Tsuyoshi Koide

Communications Biology 2 August 2019 10.1038/s42003-019-0539-7

プレスリリース資料

マウス遺伝学の「ABC」をご存知でしょうか?aは黒色の毛色になる変異、bは茶色の毛色になる変異、cは白色の毛色(アルビノ)になる変異です。(図1)このABCは、マウス遺伝学の黎明期にアルファベットの一文字で有名な変異が順番に表記されたことに由来し、これらの変異を「古典的変異」と呼びます。黒色の毛色になるaはノンアグーチとよばれ、その原因は1994年の論文で報告されました。その論文によると、Agouti遺伝子内にVL30というレトロウイルス様配列が挿入されたことで毛色が野生色の茶色から黒色に変化したとされ、今までの四半世紀の間、広く信じられてきました。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の田邉彰研究員と小出剛准教授らの研究グループは、VL30の挿入が原因ではなく、この配列の中にさらに入れ子状に挿入された別のタイプのレトロウイルス様配列(β4)が、黒色の毛色の真の原因であることをつきとめました。(図2)また、この黒毛変異は日本産愛玩用マウスを起源としていることを発見しました。(図3)この黒毛変異は現在の標準的な実験用マウス系統の多くに共通してみられることも分かりました。

本研究成果は、マウス実験で古くから利用されている黒毛変異の理解を深めるとともに、レトロウイルス様配列の挿入に起因する遺伝子変異のしくみおよびゲノム進化の理解に貢献すると期待されます。

本研究成果は、英国科学雑誌「Communications Biology」に2019年8月2日午前10時(英国夏時間)に掲載されました。

本研究の一部は、科研費(基盤研究B)「新規野生由来ヘテロジニアスマウス集団を用いた不安障害モデルの確立」、科研費(基盤研究B)「動物のヒトへのなつき行動における遺伝子・神経回路および行動学的基盤の解明」の支援を受けておこなわれました。

Figure1

図1: 代表的な実験用系統C57BL/6 (B6)と野生系統MSM
(左)B6系統は黒毛のノンアグーチ変異(a)を有することで知られている。他にも多数の実験用系統がノンアグーチ変異を持つ。
(右)日本産の野生系統MSM。アグーチ(A)の遺伝子型で野生色(茶色)を示す。

Figure1

図2: アグーチ遺伝子へのレトロウイルス様配列挿入が引き起こす黒色の毛色
古典的変異であるノンアグーチは、2段階のレトロウイルス様配列の挿入により生じた。アグーチ遺伝子のイントロン内にレトロウイルス様配列のVL30が挿入されたが、アグーチの毛色に変化は生じない。次にVL30内にレトロウイルス様配列β4が挿入されたことで、アグーチ遺伝子の発現が遮断され、黒色の毛色が生じた。ゲノム編集によりβ4配列のみを削除したβ4-delマウスと、β4を含むVL30全体を削除したVL30-delマウスは、ともに茶色のアグーチ表現型を示したことにより、β4が黒色に毛色を変化させる主要な役割を果たしていることがわかる。

Figure1

図3: 古典的変異ノンアグーチ(黒毛)と日本産愛玩用マウスとの関連
VL30配列は、東アジア産野生マウスにおいてアグーチ遺伝子に挿入された。その後、日本産愛玩用マウスがつくられるまでの過程でVL30内にβ4の挿入が生じて、黒毛となった。日本産愛玩用マウスと標準的な実験用マウスの間で同じ黒毛変異が共有されていることから、ノンアグーチ変異は日本産愛玩用マウスから広まったものであることが分かった。実験用マウスB6と日本産愛玩用マウスJF1は、ともにβ4の挿入を持ち黒毛になる。


  • Twitter
  • facebook
  • youtube