2018/01/04

成長期の神経の「試運転」を可視化 ―赤ちゃんマウスの脳で発見された新しいタイプの自発神経活動―

Press Release

Patchwork-type spontaneous activity in neonatal barrel cortex layer 4 transmitted via thalamocortical projections

Hidenobu Mizuno, Koji Ikezoe, Shingo Nakazawa, Takuya Sato, Kazuo Kitamura, Takuji Iwasato

Cell Reports Volume 22, Issue 1, p123–135, 2 January 2018 DOI:10.1016/j.celrep.2017.12.012

プレスリリース資料

ヒトをはじめとする哺乳動物の脳では多数の神経細胞がネットワークを形成し、様々な情報処理をおこなっています。神経細胞のネットワークは、胎児期に遺伝情報によって大まかに作られた後、子供の時期に「試運転」(使いながら調整)するステップを経て完成します。しかしながら、試運転の実態はよくわかっていませんでした。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の水野秀信助教、岩里琢治教授らの研究グループは、マウスのヒゲの感覚を処理する神経回路をモデルとして、この課題に取り組みました。マウスをはじめとするげっ歯類のヒゲの感覚を処理する神経は、脳内で対応するヒゲごとに集まって「バレル」とよばれるクラスターを形成しています(図1a,b)。バレルの神経の興奮状態を蛍光タンパク質によって可視化したところ、ネットワークの調整が活発におこなわれる生後5日目の赤ちゃんマウスで、同じバレルに属する神経細胞が「ヒゲの刺激なし」で同時に興奮(自発発火)し、全体では「パッチワーク状」に見えることがわかりました(図1c,d)。一方、ネットワーク完成後の生後11日目では同じバレルに属する神経細胞であってもばらばらに興奮(発火)するようになったことから、パッチワーク状の発火はネットワークの試運転中にだけみられる特徴でした。

本研究成果が、子供の脳の発達、および、その破綻による発達障害や精神疾患の理解の基盤になることが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Cell Reports」に平成30年1月2日(米国東部標準時間)に掲載されました。

本研究は、国立遺伝学研究所形質遺伝研究部門 岩里琢治研究室にて、山梨大学医学部・大学院総合研究部生理学講座神経生理学教室 喜多村和郎研究室との共同研究としておこなわれました。

科学研究費補助金(15K14322, 16H06143, 16K14559, 15H04263, 15H01454)、新学術領域「スクラップ&ビルドによる脳機能の動的制御」(16H06459)、武田科学振興財団、新潟大学脳科学研究所共同利用・共同研究(2017-2923)からのご支援に感謝いたします。

Figure1

図:マウスのヒゲの感覚を処理する神経回路の地図
(a)マウスの頬の拡大図。それぞれのヒゲには名前が付いており、上から順にAからE、左から順に数字が割り当てられる。例えば矢印はヒゲC1と呼ばれる。
(b)マウスのヒゲの感覚を処理する脳内の神経回路。写真で赤く光ってみえるクラスターがバレルと呼ばれる神経集団。バレルは、頬でのヒゲと同じ位置関係で配置している。例えば矢印はバレルC1と呼ばれ、ヒゲC1からの感覚情報の処理を行う数百個の神経細胞が集まってできている。このマウスではバレルが赤色タンパク質で標識されている。
(c)bの一部を拡大したもの
(d)生後5日目のマウスの脳で神経細胞がバレル単位でパッチワーク状に自発発火する様子。経時的に発火を観察し、同時に発火した神経に同じ疑似カラーをつけた。


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