2017/08/24

生細胞クロマチンの「密度」イメージングに成功!

生体高分子研究室・前島研究室

Density imaging of heterochromatin in live cells using orientation-independent-DIC microscopy

Ryosuke Imai, Tadasu Nozaki, Tomomi Tani, Kazunari Kaizu, Kayo Hibino, Satoru Ide, Sachiko Tamura, Koichi Takahashi, Michael Shribak, and Kazuhiro Maeshima

Molecular Biology of the Cell, 2017 DOI:10.1091/mbc.E17-06-0359

国立遺伝学研究所・総研大大学院生 今井亮輔(学振特別研究員)、野崎慎 学振特別研究員、前島一博教授らは、米国ウッズホール海洋生物学研究所(MBL)・Michael Shribakチームリーダー、谷知己チームリーダー、理化学研究所生命システム研究センター・高橋恒一チームリーダーらと共同で、ヘテロクロマチンなどの細胞内構造の密度を生きた細胞のなかで観察することに成功しました。この成果は、米国細胞生物学会Molecular Biology of the Cell誌にオンライン出版されました。同誌Quantitative Cell Biology特集号(11月号)に重要論文であることを示す「ハイライト」として掲載されます。

真核生物の細胞核の中には「ヘテロクロマチン」と呼ばれる転写不活性で凝集したクロマチンが存在しています。細胞核内のDNAを特異的染色によって調べると、このヘテロクロマチン領域は周囲の脱凝集領域(ユークロマチン)の5.5倍から7.5倍もDNAが濃縮されていることがわかります。これまで、ヘテロクロマチンはこのような高度な凝集によって転写因子等のアクセスを阻害し、転写不活化していると考えられてきました。しかしながら今回、MBLのShribakによって開発された、観察対象の屈折率および質量濃度を定量的にマッピングする微分干渉顕微鏡Orientation Independent DIC (OI-DIC)を用いて、生細胞核内の各クロマチン領域の絶対密度定量を行ったところ、ヘテロクロマチンの密度(208 mg/mL) はユークロマチン(136 mg/mL)のわずか1.53倍であることが明らかになりました(図)。

定量解析の結果、各クロマチン領域における最大の構成成分はDNA(ヌクレオソーム)ではなく、タンパク質やRNAといったヌクレオソーム以外の成分(~120 mg/mL)であることが分かりました。更に遺伝研スパコンを用いたモンテカルロシミュレーションの結果から、このヌクレオソーム以外の構成成分がヘテロクロマチンの穏やかなアクセス阻害(moderate access barrier)を産み出していることが示唆されました。

これらの成果により、生きた細胞のクロマチン環境を理解するためには、従来クロマチンの主な構成成分と思われていたヌクレオソームだけでなく、それ以外の成分にも着目する必要性が明らかになりました。また今回定量した密度値は今後の細胞内クロマチン環境の細胞生物学的・生物物理学的研究にとって重要な基礎データとなります。

本研究の遂行に当たり、平成27年度総研大海外学生派遣事業、遺伝研・共同研究(2016-A2)、文部科学省科研費(16H04746, 17J10896)、JST CREST (No. JPMJCR15G2)、NIHグラント(R01-GM101701) の支援を受けました。

Figure1

(左) 同一のマウス生細胞におけるOI-DIC光路長差マップ (光が透過する局所領域の屈折率差をマッピングした像)、DNA染色像およびヘテロクロマチンマーカーMeCP2-EGFP蛍光像。矢尻で示される蛍光の強い領域がヘテロクロマチン。光路長差マップでは、これらの領域は周囲のユークロマチンより同等か、わずかにだけ明るい。OI-DIC光路長差マップの核内の強いシグナルは、核小体に由来するもの。(右) 既知の質量濃度と屈折率を持つ溶液の検量線に基づいて定量したヘテロクロマチン (Hch, 208 mg/mL) およびユークロマチン (Ech, 136 mg/mL) の質量濃度(密度)。各クロマチン領域の密度比は1.53であった。

米国ウッズホール海洋生物学研究所(MBL)のニュースリリース記事


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