2017/03/14

流行が作られるしくみ「同調現象」を、細胞の中で発見―細胞質流動の生成と逆転のメカニズム―

Press Release

Endoplasmic Reticulum-Mediated Microtubule Alignment Governs Cytoplasmic Streaming

Kenji Kimura, Alexandre Mamane, Tohru Sasaki, Kohta Sato, Jun Takagi, Ritsuya Niwayama, Lars Hufnagel, Yuta Shimamoto, Jean-François Joanny, Seiichi Uchida, and Akatsuki Kimura

Nature Cell Biology (2017) DOI:10.1038/ncb3490

プレスリリース資料

細胞内の流れ(細胞質流動)は、人間社会の流行のように気まぐれに逆転することがあります。情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の木村健二助教と木村暁教授らのグループは、この「流れ」の生成と逆転のメカニズムを、遺伝学と数理モデルを用いた解析により明らかにしました。この成果は3月14日(日本時間)に英国科学雑誌Nature Cell Biology に掲載されました。

人間社会の流行とは気まぐれなもので、いつのまにか多数派と少数派の逆転が起こります。流行の生成と逆転の原動力には、自らの意見や行動を周りの変化に合わせる「同調現象」が深く関わっています。興味深いことに、線虫の受精卵では細胞質流動の流れの向きが気まぐれに逆転します。細胞内の流れは微小管が作るレールの上を物質が運ばれることによって生じるので、レールが一方向にそろうとより大きな流れが生じます(図1)。

本研究では、細胞内に網目状に広がる小胞体が、微小管レールの方向性を同調させる「ネットワーク」の役割を担っていることを発見しました。さらに、微小管レールを人為的に長くすると流れの向きの逆転がほとんど起こらなくなることから、逆転の頻度が微小管レールの長さで決まることを突き止めました。すなわち、小胞体の動きが流れの同調効果を生み、微小管の長さが細胞質流動の逆転の頻度に影響するのです。

細胞質流動は動物胚の発生や植物の成長に重要な役割を果たしています。本研究は、細胞質流動の生成と逆転のメカニズムを明らかにしたことで、細胞質流動が関与する初期発生のしくみの解明につながると期待できます。また、同調やその逆転を細胞内で操作できることを明らかにしたことから、人間社会と自然界の両方で見られる同調現象のしくみを明らかにする良いモデルケースとなることも期待されます。

この研究は、国立遺伝学研究所の木村研究室と島本研究室、九州大学の内田研究室、仏キュリー研究所のJoanny研究室、EMBLのHufnagel博士との共同研究として行われました。本研究は文部科学省の科学研究費補助金、総研大若手教員海外派遣プログラム、日本学術振興会サマー・プログラムなどの助成を受けておこなわれました。

こちらで論文全文がご覧になれます。

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図1:細胞質流動を生むための小胞体を介した同調効果を示すモデル図

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図2:線虫受精卵における小胞体とその動き
左列に線虫受精卵における小胞体の蛍光写真を示した(上段:正常胚、下段:小胞体の網目状構造を断片化した胚)。中列に連続写真の投影図を示した。動きを示すために各タイムポイントの蛍光像の色を変えて重ねて表示している。右列は白枠内の拡大図。流れの方向を矢印で示した。


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