2017/03/13

トゲウオを用いて遺伝子発現の進化機構を解明

生態遺伝学研究部門・北野研究室

Different contributions of local- and distant-regulatory changes to transcriptome divergence between stickleback ecotypes.

Ishikawa, A., Kusakabe, M., Ravinet, M., Yoshida, K., Makino, T., Toyoda, A. Fujiyama, A., and Kitano, J.

Evolution. 71: 565-581(2017) DOI:10.1111/evo.13175

新しい環境へ適応進化するためには、遺伝子の発現量(RNA量)の変化が重要な役割を果たします。遺伝子発現量を変化させる突然変異には、大きく分けると、その遺伝子の近傍に突然変異が入るような近位変異と、遺伝子から離れた位置に突然変異が入るような遠位変異の二種類があります。近位と遠位のどちらが環境適応に重要なのかについては、古くから論争があり、進化生物学における大きな未解決問題の一つです。このたび生態遺伝学研究部門の石川麻乃助教と北野潤教授らのグループは、トゲウオ科魚類のイトヨを利用してこの問題に挑み、近位シス変異と遠位トランス変異のそれぞれの果たす役割に違いがあることを解明し、その成果を北米進化学会のEvolution誌に報告しました(http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/evo.13175/full)。

イトヨでは、海に生息していた祖先型が河川に進出することで河川型が生まれました。我々は、まず海型と河川型間で脳内の多くの遺伝子の発現パターンが異なっていることを示したのちに、全ゲノムレベルでのeQTL解析(遺伝子発現量を制御する染色体上の位置を同定する手法)を実施しました。

その結果、環境適応には近位変異の方が重要である可能性を強く示唆する結果が得られました。逆に、遠位変異は適応進化の制約として働いていることが示唆されました。さらに、10%海水と100%海水の環境下ではeQTLが異なることなどを見出しました。

野外生物において、ここまで大規模にeQTLを実施したのは世界初であり、環境適応には近位変異の方が重要である可能性を強く示唆する成果であるとともに、複数の遺伝子を同時に変化させるホットスポットが環境依存的であることを示した成果は、環境変動への生き物の適応進化の起こりやすさについて考察する上で重要な知見を世に提示したものと思われます。類似の研究が他の分類群でも次々に実施されることが期待されます。

この成果は、東京大学大気海洋研究所、東北大学大学院生命科学研究科、国立遺伝学研究所比較ゲノム研究室との共同研究として実施されたものです。科研費 (JP23113007, JP23113001, JP221S0002, JP26870824)の支援を得て実施しました。

Figure1

一つの点は有意なQTLを示す。横軸はマーカーの位置、縦軸は遺伝子の位置を表す。赤点は、遺伝子の発現量を制御する原因遺伝子座が近傍にあるものを、青点は、遺伝子の発現量を制御する原因遺伝子座が遠位にあるものを示す。縦に直線的に並んだ点は特定の遺伝子座が多くの遺伝子の転写発現を調節しているホットスポットを表している。上図は10%海水条件下、下図は100%海水条件下の結果を示す。ホットスポットのいくつかは明らかに環境依存的である。


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