2016/07/11

染色体の凝縮を司るタンパク質因子のDNA結合特性

原核生物遺伝研究室・仁木研究室

In vitro topological loading of bacterial condensin MukB on DNA, preferentially single-stranded DNA rather than double-stranded DNA

Hironori Niki, and Koichi Yano

Scientific Reports 6, Article number: 29469 (2016) DOI:10.1038/srep29469

DNAは細胞の中にぎゅっと凝縮して格納されている。DNAの凝縮には様々な因子が関係している。その中の一つであるコンデンシン複合体は、バクテリアからヒトまで共通している根幹の凝縮因子である。コンデンシン複合体は染色体DNAの特定の位置に形成され、特にバクテリアでは複製の開始点付近に形成される。しかし、それがどのようにして決まるのかは不明である。また、コンデンシン複合体は環状構造をしており、その複合体の輪の中にDNAを閉じ込め結合する、いわゆるトポロジカル結合が可能な構造である。しかし、実際にトポロジカル結合するのかどうかはまだよくわかっていない。これらの問題を解くために、精製したバクテリアのコンデンシンタンパク質でトポロジカル結合の検出を試みたのが本研究である。

大腸菌のコンデンシンタンパク質であるMukBと、複合体の構成因子であるMukE、MukFをそれぞれ精製し、様々なDNAに対しての結合性を測定した。通常のDNA結合能は高塩濃度で阻害されるのであるが、MukBは高塩濃度でも安定なDNA結合性を見せた。この結合能は、基質となるDNAのトポロジーによって異なり直線状DNAでは観察されず環状DNAでのみ検出された。また、二本鎖環状DNAよりも一本鎖環状DNAでより顕著であった。したがって、MukBは一本鎖DNAに対してトポロジカル結合をするものと考えられる。

通常、細胞の内部では染色体DNAは二本鎖状態をとっており、限られた領域でしか一本鎖状態を取らない。そのような領域は転写の活性の高い部分であり、バクテリアではリボソームRNA(rRNA)遺伝子である。実際に、rRNA遺伝子は複製の開始点付近に複数の遺伝子が散在し、rRNA遺伝子のコピー数の低下は染色体の形に悪影響を及ぼすことが知られている。

このようなことから、私たちは、細胞内ではコンデンシンMukBは一本鎖DNAを取りやすいrRNA遺伝子にトポロジカル結合しやすのではないかと考えている。トポロジカル結合した後、MukE、MukFといった他の因子がMukBのこのトポロジカル結合を安定化させ、さらにこのMukBEF複合体同士が集まる。その結果、複製の開始点付近が束ねられるのであろう。今後は細胞内でのトポロジカル結合を調べていくことで、このモデルを検証しコンデンシンの作用の実態をさらに明らかにしていく。

Figure1

MukBタンパク質は二量体を作り、熱運動により開いたり閉じたりする。そして、染色体のDNAを挟みこみトポロジカルな結合をする。挟み込んだDNAが一本鎖DNAの時は、トポロジカルな結合が安定化する。さらにMukE, MukFが加わりさらに安定な一本鎖DNAとMukBEFタンパク質複合体が形成される。このDNAとMukBEFタンパク質複合体同士が次々と集まることにより、染色体DNAが折りたたまれるようになる。


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