2016/04/07

細胞核が細胞の真ん中に移動するしくみ

細胞建築研究室・木村研究室

Shape–motion relationships of centering microtubule asters

Hirokazu Tanimoto, Akatsuki Kimura*, and Nicolas Minc*

J. Cell Biol. 212: 777-787, 2016. DOI:10.1083/jcb.201510064

(* corresponding authors)

フランス・ジャック=モノー研究所のNicolas Minc博士と国立遺伝学研究所 細胞建築研究室の木村暁教授(総研大 教授兼任)らは、細胞核が細胞の中央に移動するメカニズムについて精緻な実験解析を行い、定量的なモデルを構築することに成功しました。この研究は、木村教授が、総研大若手教員海外派遣事業によってMinc研究室に滞在していた時の成果です。

細胞核が細胞の中央に移動する様子は、100年以上前から観察されており、そのしくみについては様々な説が提唱されていました。30年ほど前に日本のグループにより、細胞質が核を中央へと引っ張る「細胞質引きモデル」が提案されました(Hamaguchi & Hiraomoto, 1986)。木村教授らは、線虫(C. elegans)を用いた解析でこのモデルを支持する実験証拠や数理モデルを報告してきましたが(Kimura A & Onami, 2005; Kimura K & Kimura A, 2011)、現在でも核が「押されている」とする説や「細胞表層から引っ張られている」とする説を支持する研究者も多く、実験・理論両面でより強い証拠を得ることが求められていました。そこで、ウニ胚を変形させて細胞に加わる力を解析する技術(Minc et al. 2011)を有するMinc博士の研究室に滞在し、「細胞質引きモデル」を実証する共同研究を開始しました。

本研究で、Minc研究室の谷本博一研究員を筆頭著者とする研究グループはウニの受精卵において、精子核が細胞の端から中央まで長距離を移動することに着目し、多面的な解析を行いました。細胞へのレーザー照射や薬剤添加実験から細胞核が「押されている」のではなく、「引っ張られている」ことを示す証拠を得ました。また、細胞核を引っ張っている微小管という繊維状の構造物が進行方向側の細胞表層に到達していないことから、引っ張りの原動力は細胞表層ではなく、細胞質であることを示し、「細胞質引きモデル」を支持しました。移動速度が(線虫とは異なり)移動中ほぼ等速で、しかも、その速度が微小管の伸長速度と等しいという意外な測定結果に着目して、この現象を説明する数理モデルを構築しました。この数理モデルは、薬剤添加や微細加工技術で細胞を変形させた際の核の移動も見事に再現しました。以上の結果は、長い間続いている細胞核の中央配置に関する論争を「細胞質引きモデル」の支持へと大きく進展させる成果です。

Figure1

(A) ウニ(Sea urchin)受精卵における精子核の中央化:ウニの卵は線虫(C. elegans)の卵などに比べて細胞のサイズが大きいのが特徴で、核の移動中、微小管(緑)は細胞の全体をカバーしません。核(赤)は、微小管の伸長速度とほぼ同じ速度で中央化することがわかりました。
(B) 微細加工を用いた細胞の変形例:精子核(緑)が細胞の中央へ移動する様子がわかります(右端の写真は移動の軌跡を表しています)。本研究では、様々な形状に変形した細胞においても核の中央化を再現する数理モデルを構築することに成功しました。


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