2015/04/03

孤島におけるカニクイザルの遺伝的多様性

進化遺伝研究部門・明石研究室
集団遺伝研究部門・斎藤研究室

Whole-genome sequencing of six Mauritian cynomolgus macaques (Macaca fascicularis) reveals a genome-wide pattern of polymorphisms under extreme population bottleneck
Naoki Osada, Nilmini Hettiarachchi, Isaac Adeyemi Babarinde, Naruya Saitou, Antoine Blancher
Genome Biology and Evolution, 7(3):821–830 (2015) DOI: 10.1093/gbe/evv033

カニクイザル(Macaca fascicularis)は医学・薬学実験で広く用いられている霊長類で,多様な遺伝的背景を持っていると考えられています.これら実験用霊長類の遺伝的背景を明らかにすることは医学・薬学研究の発展にとって重要な課題です.

カニクイザルは東南アジアに広く分布していますが,それに加えモーリシャス島に生息する特徴的な集団が知られています.これらのサルは16世紀に船乗りによって少数の個体が持ち込まれ,その後急速な速度で島全体に広がったと考えられています.今回の研究目的のひとつは,モーリシャス産カニクイザルの全ゲノムレベルでの遺伝的多様性がどのようになっているかを明らかにすることです.また本件は,哺乳類のような生物種で,少数の個体から爆発的に集団内の個体数が増えたときにどのような影響がゲノムに起こるのかを調べるよいモデルになります.

今回,我々はトゥールーズ第三大学との共同研究により,モーリシャス産カニクイザル6個体のゲノム配列を決定し解析を行いました.これらのゲノム配列を比較解析することにより,モーリシャス産のカニクイザルは,これまで考えられていたようにインドネシア・マレーシア集団に由来し,母集団よりも2割程度低い遺伝的多様性を持っていることが確認できました.それだけでなく,急激な個体数の減少が集団の中の遺伝子多型頻度に強く影響影を与えることが観察されました.これらの全ゲノム情報は新規遺伝子の同定や効率的な遺伝子発現解析など,今後モーリシャス産カニクイザルを医学・薬学実験で用いる際の重要な情報になるでしょう.

Figure1

左)赤い円で囲まれた島がモーリシャス島 右)カニクイザルの写真


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