2014/08/25

学習能力の発達を調節するタンパク質を発見! ~成長期でのはたらきが、おとなの脳機能を左右する~

Press Release

RacGAP α2-Chimaerin Function in Development Adjusts Cognitive Ability in Adulthood

Ryohei Iwata, Kazutaka Ohi, Yuki Kobayashi, Akira Masuda, Mizuho Iwama, Yuka Yasuda, Hidenaga Yamamori, Mika Tanaka, Ryota Hashimoto, Shigeyoshi Itohara, Takuji Iwasato Cell Reports Available online 21 August 2014 DOI:10.1016/j.celrep.2014.07.047

プレスリリース資料

私たちの脳には、1000億以上の神経細胞(ニューロン)があります。これらは互いに突起(神経突起)を延ばして結びつくことによりネットワーク(神経回路)を作り出し、記憶、学習、思考、判断、言語といった高いレベルの機能(高次機能)を果たしています。このような神経回路は成長期にさかんに作られ、おとなになってからの脳のはたらきを支えていると考えられています。ただし、そこにどのようなしくみが存在し、どのような分子が関与するのかといったことは、よくわかっていません。

今回、国立遺伝学研究所 形質遺伝研究部門(総合研究大学院大学 生命科学研究科教授兼任)の岩里琢治教授、理化学研究所 脳科学総合研究センターの糸原重美シニアチームリーダー、大阪大学大学院 連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授らのチームは「αキメリン」というタンパク質に注目し、このタンパク質が脳の機能にどのような影響を与えているかを調べました。αキメリンにはα1型(α1キメリン)とα2型(α2キメリン)がありますが、それらの遺伝子をさまざまに改変したマウスを作り、行動実験を行ったのです。その結果まず、両方のタイプのαキメリンがまったくはたらかないマウスは、正常マウスの20倍も活発に活動することがわかりました。次に、このマウスはおとなになってからの学習能力が高いことが明らかになりました。α1型だけをはたらかなくしたマウスや、おとなになってから両方のタイプがはたらかないマウスの学習は正常であったことから、学習能力には、成長期におけるα2キメリンのはたらきが鍵であることもわかりました(図)。

一方で、健康な人を対象に「αキメリン遺伝子のタイプ(多型:SNPs)」と人格や能力などとの関係を調べました。すると、α2キメリン遺伝子のすぐ近くにある「ある塩基」が「特定の型」の人では、性格や気質に一定の傾向がみられ、計算能力が高いことが明らかになりました。 一連の結果は、αキメリンが「活動量、学習機能といった幅広い脳機能の制御を担っていること」、「成長期でのはたらきが、おとなになってからの学習機能に影響すること」、「ヒトにおいて、脳機能の個人差に関与すること」などを示唆しており、ヒトの学習障害や精神疾患との関連の検証、これらの病気のメカニズム解明などに役立つと期待できます。

今回の研究は、国立遺伝学研究所 形質遺伝研究部門の岩田亮平研究員(元 総研大大学院生)が中心となり、国立遺伝学研究所 形質遺伝研究部門 岩里琢治研究室、理化学研究所脳科学総合研究センター 行動遺伝学技術開発チーム、大阪大学大学院医学系研究科 情報統合医学講座精神医学教室との共同研究で行われました。 また、この研究は、科学研究費補助金(11J03717, 20300118, 22115009)、FIRST、国立遺伝学研究所共同研究(A,B)、三菱財団、上原記念生命科学財団、内藤記念科学振興財団、山田科学振興財団、包括脳ネットワークの支援により行われました。

Figure1

α2キメリンは子どもの脳で働いて、間接的に、おとなの脳での学習能力を適切なレベルに合わせる。学習能力は神経回路の性能によって左右されるが、α2 キメリンは回路がつくられるときに働いて、その性能を決める過程に関わっていると考えられる。


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