Control of Intermale Aggression by Medial Prefrontal Cortex Activation in the Mouse.
Aki Takahashi, Kazuki Nagayasu, Naoya Nishitani, Shuji Kaneko, Tsuyoshi Koide PLOS ONE April 16, 2014 doi:10.1371/journal.pone.0094657相手に危害を加えようとする攻撃行動は、動物が、なわばりや地位、子どもを守ろうとするときなどに観察されます。しかし、この攻撃行動は過剰なものとならないように、実は抑制がきいたものと考えられています。例えば、雄マウスは、なわばりに侵入してきた雄に攻撃行動をとりますが、そのときに相手を殺してしまうことはないからです。攻撃行動にブレーキがかかる神経メカニズムがあるのです。いったい、それはどのようなものでしょうか。高橋阿貴助教らはこの問題に取り組みました。
これまでの研究で、齧歯類、霊長類(ヒトを含む)において、攻撃行動に重要な働きをする脳の領域の1つとして、前頭葉が指摘されてきました。そこで今回、雄マウスを用いて、前頭葉の働きを詳しく解析しました。その結果、前頭葉の神経細胞が攻撃行動を抑制することを初めて証明し、その詳細な仕組みまでも明らかにすることができたのです。
このような解析を可能としたのは、オプトジェネティクス(光遺伝学)の利用です。この新しい技術は、光を当てることによって、特定の神経細胞を活性化したり抑制したりする方法なのです。
前頭葉の中でも攻撃行動に関わる重要な部位は、「内側前頭前野」という箇所です。今回、内側前頭前野に存在するある種の神経細胞を活性化すると、攻撃行動の頻度が減少することが判明しました。また、すでに攻撃行動をとっているときに、この神経細胞を活性化させても、攻撃行動を即座に抑制することはできないことがわかりました。
これらのことから内側前頭前野は、攻撃行動を起こりにくくする働きをするが、ひとたび始まってしまった攻撃行動を止めることはできないということが明らかになりました。
マウスとヒトの脳の基本的な仕組みはある程度似ていることから、マウスでの知見は、過剰な攻撃性のメカニズムの理解やそれをコントロールする薬物の探索において、ヒトでの研究に役立たせることができると考えられます。今後は、今回明らかになった知見を基に、攻撃行動が抑制される神経メカニズムを、より詳細に、より包括的に理解すべく、研究を続けていきます。
mPFCを光刺激すると、雄マウスの攻撃行動が減少した。
ON:光刺激(青色光(20Hz, 5mW)を照射)、OFF:光刺激なし、灰色線:各個体のかみつき行動の頻度、黒線:平均値。