生物は太陽の光による昼夜の明暗サイクルから様々な影響を受けています。それは動植物のみならず、真菌や細菌においても同様です。私達は、真菌であるジャポニカス分裂酵母が、明暗のサイクルに応答すること発見しました。ジャポニカス分裂酵母は名前のとおり、日本で分離された酵母です。この分裂酵母は、栄養条件の悪化といったストレスやDNA損傷させるようなストレスを受けると、酵母から菌糸に生育の仕方が変化します。ペトリ皿の寒天培地の中心にこの分裂酵母を植えると、数日で酵母のコロニーが現れます(図a)。さらにこれを培養つづけると、コロニーの周囲から菌糸が放射状に伸長します(図b)。増殖中の菌糸に光を日周期的に照射させると、菌糸の部分に黒白の縞が形成されます (図c)。これは、ジャポニカス分裂酵母が、光の変化に反応したためです。この黒い縞の部分では、細胞分裂が一斉に活性していることがわかりました。真菌類では、WC-1とWC-2の2つのタンパク質からなる光受容体がよく知られています。確かに、これと類似したタンパク質の遺伝子がジャポニカス分裂酵母にもありました。それらの遺伝子を破壊すると光に応答しなくなるので、ジャポニカス分裂酵母でもWC光受容体が縞模様の形成時に働いていることがわかりました。さらに光だけなく、温度を上下すると光の刺激がなくても、同様の縞模様を作りだしました。この時には、WC光受容体は必要ありません。おそらく、別に温度の受容体があるのでしょう。以上のように、酵母も日周的に変わる温度や光といった環境要因を感知して、細胞の活動を周期的に調整することがわかりました。今後は、細胞分裂の活性化の仕組みや、熱受容体が何であるのかといった問題を解き明かしていきます。
なお筆頭著者の岡本尚 博士は、2012年度国立遺伝学研究所博士研究員制度の援助を受け、本研究を行いました。
ジャポニカス分裂酵母は栄養ストレスのかかる培地で培養すると、数日間は酵母型の細胞で増殖し(a)のようなコロニーを発達させますが、さらに培養を続けると(b)のように菌糸型の細胞に転換し菌糸を伸長させるようになります。このときに明暗の刺激があると菌糸に(c)のような縞が形成されます(12時間の明条件、12時間の暗条件)。