トゲウオ科魚類は、生息場所によって外見や行動が種間や集団間で大きく異なっていることから、現在、このトゲウオの持つ「多様性」が大きく注目されており、生態学や進化生物学の最前線のモデル生物として世界中で活発に研究されています。今回、生態遺伝学研究室の石川麻乃研究員(学術振興会)や北野潤特任准教授らの研究グループは、北海道東部に生息するトミヨ隠蔽種(外見が似ていて容易に区分できない種)について、隠蔽種間の生殖的隔離、生態的分化、生理的分化等について体系的に解析を行いました。
エゾトミヨ、淡水トミヨ、汽水トミヨの隠蔽3種は遺伝的に明らかに異なっており、同所生息域でも淡水トミヨと汽水トミヨ間の雑種のみがごく稀に採集される程度でした。これら3種は河川の上流から下流にかけて生息域をうまく住み分けて共存しており、摂餌器官や浸透圧耐性能も大きく異ななっていました。一方で、鱗板(体の側面の骨化組織)の変異は、単純な上流-下流勾配にそった変異はみられず、また、その遺伝基盤は近縁のイトヨ属とは異なる遺伝子で決定されていることが明らかになりました。イトヨ属では、Eda遺伝子が鱗板をコントロールしていることが既に知られていますが、トミヨ属ではEda遺伝型と鱗板表現型に相関は見られませんでした。
これらの成果は、トミヨ属とイトヨ属の表現型進化の遺伝基盤が異なっていることを示しており、トミヨ属は、表現型進化の遺伝基盤の一般性を理解するためにイトヨと並び貴重な研究材料となることが示されました。
この研究は、新学術領域「ゲノム遺伝子相関」、JSTさきがけ、国立遺伝学研究所共同利用、日本学術振興会等の助成のもと行われました。
これら三種のトミヨは外見が似ていますが別種であり、うまく生息場所を住み分けて共存していることが分かりました。