2026/02/04

性選択と雑種形成による種分化

北野研究室・生態遺伝学研究室

Speciation by sexual selection and hybridization

Kotaro Kagawa

Proceedings of the Royal Society B (2025) DOI:10.1098/rspb.2025.2605

動物のオスは様々な方法でメスに求愛します。魚や鳥のカラフルな婚姻色や、虫やカエルの鳴き声、鳥やクモの求愛ダンスなどは求愛ディスプレイの代表例です。興味深いことに、急速な種の多様化が起きた分類群の多くで求愛ディスプレイも種間で多様化しています。求愛ディスプレイの多様化を伴う種分化はいかにして起きるのでしょうか?

このたび、生態遺伝学研究室の香川幸太郎研究員は、コンピューターを用いた進化のシミュレーションに基づいて「雑種形成と性選択の相乗効果が新たな求愛ディスプレイを持つ新種の形成を促進する」という理論を発表しました。本研究のシミュレーションでは、コンピューター上に生物を模しつつ単純化した「仮想の生物」を構築し、仮想生物の集団が性選択や遺伝子の突然変異を通じて進化する様子を再現しました。様々な条件設定の下で仮想生物を進化させるシミュレーションを行うことで、現実の生物にも一般化できる進化の法則やメカニズムを見出すことを目指しました。

初めに雑種形成が起こらない場合の進化をシミュレーションした結果、全く同じ条件設定のシミュレーションでも性選択によって進化する求愛ディスプレイは毎回同じではなく、進化が行き着く先には複数通りの可能性があることが分かりました(同様の結果は過去の研究でも報告されています)。これは、メスの配偶相手への好み(選好性)も進化を通じて変化するため、性選択によってオスの求愛ディスプレイが進化する方向が最初から一意に決まっている訳ではないためです。この結果から、異なる求愛ディスプレイをもつ複数の種が進化することは潜在的に可能だと言えます。ただし、一度のシミュレーションの中で進化する求愛ディスプレイと選好性の組み合わせは一通りだけで、メスの選好性とオスの求愛ディスプレイが互いにマッチした状態がひとたび実現するとその状態が安定的に維持される傾向がありました。したがって、祖先種で既に選好性と求愛ディスプレイの進化が進んでいる場合には、その種から新たに異なる求愛ディスプレイを持つ新種が分岐する進化は非常に起こりにくいと言えます。

そのような状況下で、遺伝的に分化した系統間の交雑(雑種形成)が新たな選好性と求愛ディスプレイの組み合わせを持つ新種の進化を促進しました(図を参照)。雑種形成を考慮したシミュレーションでは、祖先種がいちど二集団に分かれ、しばらく別々に進化した後に再会して交雑するシナリオを想定しました。二集団が別々に進化した期間中は祖先種の求愛ディスプレイと選好性が引き続き維持されましたが、各集団に遺伝的な変異が少しずつ蓄積し、同じ表現型を生み出す遺伝的な基盤は徐々に分化しました。その結果、二集団の遺伝子が混ざり合う雑種集団では遺伝的多様性が一時的に増大し、求愛ディスプレイや選好性の個体間のバリエーションも増加しました。メスの選好性にバリエーションが生じたことで、性選択における祖先種の求愛ディスプレイの優位性が弱まり、祖先種で固定化された選好性と求愛ディスプレイの組み合わせから抜け出す進化が促進されました。その後、雑種集団の遺伝的多様性が減少する過程で祖先種とは異なるメスの選好性が固定化されると、性選択を介して新たな求愛ディスプレイを持つ新種が形成されました。

今後の課題は、シミュレーションの中で起きたような進化が実際の生物でも可能なのかどうかを確かめる事です。そのために必要な次のステップは、雑種形成によってメスの選好性がどの程度多様化し、性選択の作用がどう変化するのかを調べることです。

本研究は科研費(22K15163; 25K09750)の支援を受けて実施しました。

本研究で提案する仮説の概要。この仮説は祖先種の中に表現型は似ているが遺伝的に分化した2系統が存在する状況(a)を想定する。これらの系統間の雑種集団ではメスの選好性の個体間バリエーションが増加し、性選択の作用が変化する(b)。その結果、新たな求愛ディスプレイを持つ新種の形成が促進される(c)。


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