Euchromatin and heterochromatin: implications for DNA accessibility and transcription
Katsuhiko Minami#, Adilgazy Semeigazin#, Kako Nakazato, and Kazuhiro Maeshima*
# co-first authors; * corresponding author
Journal of Molecular Biology (2025) DOI:10.1016/j.jmb.2025.169270
ヒトなどの高等真核細胞では、ゲノムDNAはヒストンに巻きついてヌクレオソームを形成し、これがさらに、転写が活発な「ユークロマチン」から、不活化された「ヘテロクロマチン」まで、さまざまな折りたたまれ方をした凝縮クロマチンドメインを構築しています。過去15年間の研究で、これらのクロマチンドメインが「液体のようにふるまう」ことが明らかになってきました。本論文において、ゲノムダイナミクス研究室の南克彦特任研究員(元・総研大生/学振特別研究員DC2)、Semeigazin Adilgazy総研大生(文科省国費外国人留学生)、仲里佳子総研大生、前島一博 教授は生きた細胞におけるクロマチンの動きや物理的性質について議論しました。さらに、こうした振る舞いが遺伝子転写やDNA複製の制御にどのように関与しているかについて、「DNAアクセシビリティ」の観点から論じました。
1分子ヌクレオソームイメージングに基づく南らの最近の成果(論文及び遺伝研プレスリリース)により、凝縮したクロマチンドメインの中で、ユークロマチンはより液体のように、ヘテロクロマチンはよりゲルのように振る舞うことが明らかになりました。この物理的性質は、大きなタンパク質がどの程度クロマチン内部にアクセスできるか(アクセシビリティ)に直結し、遺伝子の転写やDNA複製・修復といったゲノム機能の制御に深く関与していると考えられています(図)。本論文はJournal of Molecular Biology誌の”Imaging of the central dogma” 特集号に掲載されます。
本研究は、日本学術振興会 科研費 (JP23K17398, JP24H00061, JP23KJ0998)、先進ゲノム支援 (PAGS・JP22H04925)、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム (JPMJSP2104)、日本学術振興会特別研究員プログラム (23KJ0998)、および武田科学振興財団の助成を受けて実施されました。
図:ユークロマチン・ヘテロクロマチンの物理的性質とアクセシビリティ
生きた細胞内で、遺伝子の転写が活発に行われるユークロマチン領域(IA, IB)はより「液体様」に、転写の抑制されたヘテロクロマチン(II, III)はより「ゲル様」に振る舞う。この性質は、転写因子(紫)などが短い時間にどれほどクロマチン内部へ「アクセス」しやすいかと直結している。