2025/06/13

トランスポゾンを用いた効率的な多サブユニット蛋白質の生産

川上研究室・発生遺伝学研究室

Production of multi-subunit proteins in CHO cells by transposase-mediated integration of subunit-splitting vectors.

Keina Yamaguchi, Risa Ogawa, Masayoshi Tsukahara and Koichi Kawakami

Scientific reports (2025) 15, 18512 DOI:10.1038/s41598-025-03301-3

CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)は、抗体医薬などのタンパク質生産に広く用いられています。私たちは以前、Tol2トランスポゾンシステムを用い、効率的にタンパク質生産細胞株を樹立する方法を確立しました。これは、転移により目的の遺伝子がCHO細胞ゲノムの様々な領域に複数組み込まれることによるものです。

今回、私たちは、モノクローナル抗体遺伝子を発現させる際、L鎖とH鎖遺伝子を両方もつ単一のベクターではなく、各サブユニットを別々にもつふたつのベクターを作製し、CHO細胞に導入しました。

その結果は、最長12週間にわたり安定的にタンパク質を生産し、フェッドバッチ培養(流加培養)において高い生産性を示す細胞株が得られました。これらの細胞株では、異なる種類のモノクローナル抗体ごとに、ゲノムに組み込まれたL鎖とH鎖ベクターのそれぞれのコピー数にばらつきが見られました。抗体高生産細胞株において、これらのベクターが最適なコピー数の比率で組み込まれていることが示唆されました。また、この際に薬剤耐性遺伝子は、H鎖のベクターにしか組み込まれておらず、そのような条件下でも組み込まれたコピー数の最適化が起こることがわかりました。

この研究は、モノクローナル抗体や複数サブユニットからなるタンパク質の生産において、Tol2トランスポゾンシステムが有用である可能性を示し、バイオ医薬品の生産技術の進展に貢献するものです。

本研究は、国立遺伝学研究所と協和キリン株式会社の共同研究として行われました。

図:本手法の概略図。
H鎖およびL鎖遺伝子をもつ別々のトランスポゾンベクターを、CHO細胞に同時にトランスフェクションする。薬剤耐性(シクロヘキシミド)遺伝子はL鎖ベクターのみがもつ。トランスフェクションされた細胞内では、H鎖およびL鎖ベクターが、さまざまなコピー数で宿主ゲノムに組み込まれる。最適なH鎖およびL鎖ベクターのコピー数をもつ細胞が、モノクローナル抗体を効率的に生産する細胞株として選択可能である。


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