野々村 賢一 准教授(ののむら けんいち)

実験圃場 野々村研究室
1990年:九州大学農学部卒業後、九州大学大学院農学研究科入学
1993年~1995年:日本学術振興会、特別研究員
1995年~1996年:かずさDNA研究所にて共同研究員
1996年:博士(農学)を取得
1996年~:遺伝学研究所

イネを通じて減数分裂の「対合」のしくみに迫る

国内にイネの研究者は多いが、基礎研究をやっている人は意外にも数少ないという。
野々村先生は、イネの生殖細胞の発生、とりわけ減数分裂の仕組みについて長年追いかけてきた。その結果、イネが種を実らせるのに必須のMEL1やMEL2などの遺伝子を発見した。食料として重要な植物「イネ」を通じて、減数分裂の謎に迫っている。

イネの生殖細胞で起こる減数分裂を調べる
野々村先生の研究対象は、イネの花のつぼみの中にある生殖細胞だ。生殖細胞が減数分裂を経て花粉(雄性配偶体)と胚嚢(雌性配偶体)を作り、それらが受精して種子ができる。
減数分裂の際、同じ細胞内の母親由来と父親由来の対になった染色体が、お互い同じ物どうし(相同)であると認識して隣同士にぴったり並ぶ。これを対合と言う。そのとき母親由来、父親由来の染色体の間で遺伝子の組み換えが起こる。遺伝学の根幹といえる現象だ。
「大学時代、顕微鏡で見たイネの減数分裂にすごく感動しました。そのイネはちょっと変わっていて、対になっている染色体の片方だけ、5番目の染色体と9番目の染色体の一部が相互に入れ替わっていました。これが対合するとどうなると思いますか?普通は一直線に対合するんですが、これは十字形になるんですね。入れ替わっていても、5番は5番、9番は9番と、同じ部分はここだとお互いが認識している。顕微鏡で見るとものすごくきれいで、対合のメカニズムを解明したいと思いました。」
今でも、顕微鏡で何かを見つける瞬間は格別だ。
「突然変異体を見つけてきて、顕微鏡で観察して初めて、減数分裂でどのような異常が起こってるのかが少しづつ見えてきます。異常な表現型を最初に目の当たりにした瞬間は、全身に電気が走るような感じ。こういう感動が研究の醍醐味です。」
生殖細胞で働く遺伝子「MEL1」「MEL2」を発見
野々村先生は、種が実らないイネの突然変異体からMEL1遺伝子を発見し、2007年に論文を発表した。
「MEL1が働かないと、花粉はからっぽ、胚嚢もぺちゃんこでほとんど何もできません。その原因は、減数分裂における染色体対合が初期で停止したからでした。だから種が実らないのです。」
MEL1は、RNAと結合して様々な生命現象を制御する(RNAサイレンシングと呼ばれている)タンパク質ファミリーに属することがわかってきた。
「現在、MEL1が実に数万種類の小分子RNAと結合することが私たちの研究からわかってきました。しかしそれらがどのように減数分裂で働くのかは未だ謎で、研究は一里塚に到達したに過ぎません。」
もうひとつの遺伝子、MEL2も突然変異体の解析から見つかった。
「スギの花粉が春先一斉に飛びますが、これも元をたどっていくと減数分裂に行きつくんです。」
葯の中の始原生殖細胞が、何回か体細胞分裂したのち減数分裂して花粉が作られる。体細胞分裂はばらばらに起こるが、減数分裂が近くなると、体細胞分裂周期がある時期で停止する。全部の細胞の周期が揃ったときに分裂が再開して、一斉に減数分裂に入る。この現象自体は古くから知られていたが、遺伝学的にどのように制御されているかはわかっていなかった。
「僕らが見つけた遺伝子MEL2は、減数分裂の同調性を確立する働きがあることがわかりました。MEL2を壊すと、減数分裂に入るタイミングがばらばらになって生殖細胞が死んでしまいます。MEL2がコードしているタンパク質は、RNAに結合する能力をもっており、結合したRNAの安定性や働きを抑制することによって、いったん細胞分裂を止めておく。ある時期になったらMEL2が働かなくなって、一斉に分裂が再開するのではと考えています。」
野生イネの優れた性質を栽培イネに導入したい
「もう一つ僕が興味を持っているのは、野生イネ。野生イネには人間の背丈より大きいもの、横に広がって伸びるもの、小さいものなど様々な形態があります。」
イネ属には栽培種が2種、野生種21種が存在する。遺伝研ではナショナルバイオリソースプロジェクトの一貫として、20種の野生イネ、約1,700系統の種子を増殖・保存し、研究者のために分譲している。
「性質もいろいろで、野生イネの中には農業上深刻な被害をもたらすイネの病気、例えば白葉枯病などに非常に強いものがあります。栽培種には無い遺伝子を持っているのは明らかで、じゃこれを育種に使えばいい!と思うじゃないですか。でも問題があって、野生イネに栽培種を交雑すると、多くの場合、子供はできても種がつかないため孫ができない。この減数分裂を調べてみると、僕の興味の対象である染色体認識がうまくいっていないんです。同じイネ属なんだけど、野生種と栽培種のゲノムの構造に明確な違いがあって、これは違うじゃないか、と認識されて対合できない。この違いを認識する仕組みがわかれば、育種に利用できるかもしれません。減数分裂に関する突然変異体を使って、この課題に取り組めないかと考えています。これがうまく行くのが究極のゴールです。」
イネの減数分裂に集中して研究を続けてきた
農学部で遺伝学を学んだとき、「生物を研究するなら遺伝学だ」と思ったという。遺伝的な性質を記号で数理モデルのように説明できる、シンプルかつ美しい学問だったからだ。
「僕の場合、とにかくイネの生殖、減数分裂、生殖細胞の発生。そこに集中してやってきましたが、それでもまだまだやることはたくさんある。研究が嫌になったことはありません。顕微鏡を覗いているときなど、没頭してイネの細胞に入り込んだような感覚になり時を忘れます。自分の興味を掘り下げて持続させ得る情熱が、研究者にとって大事な資質だと思います。」
最後に、自分の成長のために心がけていることを聞いた。
「行きづまったり元気がなくなったときに読むのは探検家・植村直己の本。極限状態でもなんとか自分を奮い立たせて乗り越えていく姿に勇気をもらい、自分もがんばろう!と思えます。
僕はおおざっぱな性格なんですが、突然変異体を観察するときはかえってそれがよかったりします。しかし個々の遺伝子・タンパク質の機能を研究する時は、もちろん細部が重要です。研究室のメンバーとは実験データについて日々議論し、自分が気づかなかったような視点に触れることも多く、とても刺激になっています。大きな視野を持ちながら、でも細部を大切にしてじっくり考える姿勢を心がけたいです。」
(田村佳子 インタビュー 2013年12月)
 パンフレットダウンロード(1.3MB)


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