平田 たつみ 准教授(ひらた たつみ)

神経発生学の魅力

もともと、混沌としている中から法則を見つけ出すこと、数式できっちり証明できることが好きだった。研究者を目指したのは「一見不思議そうに見えるのに、単純な原理で説明することができるから」。現在は国立遺伝学研究所で、最も不思議が詰まった器官ともいえる、脳の神経回路形成について研究を進めている。

文系からのスタート
今は、研究者として最前線で活躍しているが、実は文系での大学受験をしていた。もともと理科が好きだったのだが、大学進学を希望する学生が少ない高校に入学したため、授業でも数学や物理を本格的に学ぶことができなかった。だからこそ、文系で受験ができて、入学後に理系を選択できる大学を受験したのだ。
大学では、ただ知識を吸収するだけの授業が嫌いで、すでに解っている結果を出すための実習も好きにはなれなかったという。「教えてもらいたいわけはなく、自分で学びたい。そして、疑問を持ったら試してみたい。だから 『自分の研究』 じゃないとダメだったんだと思います」。卒業研究として自らのテーマを持つことで、自分で仮説を立て、実証するという研究の魅力に気づき研究者を志した。
脳の不思議を解き明かす
脳が様々な情報を高度に処理できるのは、神経細胞から伸びた「情報を送り出す軸索」と「情報を受け取る樹上突起」による複雑な連絡網ができているから。そのためには、軸索が目的の位置を目指して伸びたり、止まったり、時には縮んだりを繰り返す必要がある。しかし、その仕組みはまだ十分に解明されていない。
多くの研究者の成果から、伸長している軸索の先端には「成長円錐」と呼ばれる手のひら状の構造が見られ、様々な手がかりを探索しながら目的の細胞までたどりつくことが解ってきた。つまり、成長円錐が崩壊すれば、軸索の伸長は止まると考えられ、実際にそのような観察結果も報告されている。しかし、平田先生の研究室では、成長円錐はそのままなのに、軸索の伸長がじわじわと止まっていく現象を捉えることに成功した。
現在主流となっている考え方からは外れるものの、成長円錐の崩壊と軸索伸長の停止には、まだ説明できない現象も多い。自分で考えた実験結果から、新たな可能性を導きだす。まさに、研究の醍醐味と言えるかもしれない。
何事も、やってみなくてはわからない
研究者になりたいと思っていても、実は向いていない人がいるかもしれない。逆に今は勉強が嫌いでも、研究を始めてみたらその面白さにはまる人もいるかもしれない。
「いまのうちから自分の道を決めてしまわずに、どんどんいろんなことにチャレンジしてほしい」。そんな想いを持つ平田先生の研究室では、研究テーマの決め方も個性的だ。
大きなくくりとして「神経発生学」と分類できれば、基本的にどのようなテーマにも対応してもらえる。いろいろなテーマに力が分散してしまう分、研究室としては効率が良くないかもしれない。
でも、「本人が興味のあるテーマをやってこそ意味がある。そんなやり方が許されているのも遺伝研の魅力」なのだそうだ。
(株式会社リバネス 2009年インタビュー)
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