遺伝研における男女共同参画 GENDER EQUALITY AT NIG

遺伝研に女性教員が多いのは研究のやりやすさの反映です

遺伝研には女性教員が多い???

最近,アカデミックの分野でも男女共同参画の諸問題が議論されています.中でも,リーダーシップの問題は重要です.研究者総人口にしめる女性の割合に較べてPI(principal investigator: 研究グループの長)に女性がきわめて少ないからです.しかし,大学・研究所の中で,遺伝研には例外的に女性PIが多いのだそうです.本当でしょうか?

2005年5月1日現在,遺伝研には35の研究グループがありますが,そのうち6つが女性PIによって率いられています.この割合(17%)は過去12年間に遺伝研に入学した大学院生の中の女性の割合(24%)より低いですし,アメリカの生命科学系の学部の女性PIの割合の2/3程度でしかありません(表1).外国にはPIのほぼ半数が女性である機関もありますから,遺伝研もまだ真の男女共同参画にはほど遠いことがわかります.
とはいえ,日本の大学全体では女性の割合が教授で4.9%,助教授で9.2%ですから,「遺伝研は国内ではトップクラス」という認識は正確なのかもしれません.では,この状況はどのようにして達成されたのでしょうか?

遺伝研での女性研究者の活躍の歴史は古く,1976年に太田朋子,1978年には森島啓子が室長(現在の助教授に相当)に登用されています.この2人は60年代に研究員として遺伝研に入所し,90年代後半に教授として停年退官するまで30年以上にわたって遺伝研の発展に貢献したのです.
このような歴史的背景の元で,遺伝研の女性教員は着実に増加し,ここ10年は,4人の女性教授の停年退官にもかかわらずPIの2割弱が女性という状態が続いています(図1).これは,1992~2004年の12年間に遺伝研が行った教員公募62件のうち,17.7%で女性が採用されているという数字によっても裏付けられています.一方,これらの公募の応募者総数は615人,そのうち女性は82人,13.3%です.女性の方が総じて応募に際しての“閾値”(応募を決心するのに必要なエネルギー)が高いことを考えると,これらふたつの数字には有意な差はないでしょう.つまり,遺伝研の現在の状況は,「女性を意図的に優遇して採用してきた」ためではなく,「優秀な女性が応募してきた」ことの結果であると考えられます.そこで,「遺伝研が女性研究者にとって魅力的な理由」を考えてみることにしましょう.

“助教授PI”制度が女性応募者の割合を高めている

遺伝研の特徴の一つはその研究室構成です.日本の大学は講座制,つまり「教授によって率いられた一つの研究室の中に多くの助教授や助手がいる」という制度を維持しているところが多いですが,遺伝研は,“助教授PI”すなわち「助教授も研究グループのリーダー」というシステムを採用しています(図2).1984年に遺伝研が大学共同利用機関に改組される前から室長の何人かはPIとして機能していましたし,その後各種センターが新設されたときに研究室がほとんど助教授ヘッド(教授ポジションがなかった)であったという歴史的背景もあります.この制度には「研究室が小規模で運営しやすい」,「雑用や雑事も少なく,研究に専念しやすい」といった利点もおおく,センター研究室の成功がその後,系・部門にも助教授PIの制度を広げたきっかけになっています.
遺伝研の公募のデータを見ると,このような制度や機構が遺伝研人事に女性研究者が多数応募する理由の一つであることがよくわかります.現在の日本の状況では地位が高くなるにつれて女性の割合は低いですから,教授公募に比べて助教授公募の方が応募できる女性の母集団は大きくなります.遺伝研が過去に行った公募においても,教授職の公募と助教授・助手の公募では応募者の女性比率に顕著な違いがあり,助教授ポジションの公募をすると,応募者総数が多いだけでなく,女性応募者の割合も高いのです(表2).この割合は,外国の機関における公募での女性の割合よりはまだまだ低いようです(表3).しかし,国内でも“若手”PIのポジションを公募している機関には遺伝研と同程度の女性応募者がありますから,研究組織の設計が女性PIの登用に大きく影響しうることが伺えます(表3).“若手”といっても,遺伝研では助教授公募に年齢制限を設けておらず,子育てなどによってキャリアのブランクができやすい研究者に不利にならないよう配慮されています.

遺伝研の雰囲気と人事の精神

所内の人たちに「遺伝研が女性研究者にとって魅力的な理由」を聞いてみると,多くの人が「女性である不自由さを感じさせない環境」,「性別を意識せずに仕事がしやすそうな気風」,といった遺伝研の雰囲気をあげました.さらに,「研究者のレベルが高く,しかも研究室間に垣根が無い.真剣に良い議論をしている環境で,女性だけを差別するという面倒くさいことは考えつきもしない」,「ピラミッド型の講座制が発達していないので,上下左右(?)関係に気を使う必要がなく,気楽に自由に行動できる」,「研究内容に関して非常にオープンであり,研究の利害関係をとやかく言う人が少なく,研究そのものを楽しむ雰囲気がある」といった感想もあります.確かに,遺伝研では研究者間の交流がとても盛んです.複数の研究室の合同セミナー,所内の共同研究,プログレスレポート制度による他研究室の学生の指導,といった様々な形の交流活動が行われています.何より,カバーする研究分野が幅広いのにもかかわらず「所属研究室以外の分野の研究活動にも興味を持つ」という気風があり,活発な質問や討論を通して互いに刺激を与えあい,研究の質を高めています.つまり,遺伝研は,女性に限らず誰にとっても魅力的なのです!
こういう気風は遺伝研の人事の精神にも反映しています.遺伝研が採用したいと思っているのは,「他の人に刺激を与えられる人」,「遺伝研の環境を使って自分の研究を発展できそうな人」,そして何より,「自分たちより優れた人」!!
男と女には研究者として必要なさまざまな条件においてそれぞれ優劣があるかもしれません.しかし,そのような“違い”を多様性をもたらす“利点”として歓迎し,共同で研究に参画している,これが遺伝研の最大の魅力ではないでしょうか!!!

謝辞 貴重なデータを提供していただいた以下の方々に感謝いたします.

 

遺伝研における公募

遺伝研は大学共同利用機関ですから,人事は所内・所外同数の委員からなる“運営会議”で審議されます.まず分野,職種,任用の条件などの選考の基本方針について所内で検討し,運営会議によって人事委員会が作られます.PI選考の人事委員会には必ず所外委員が含まれますし,「選考の対象となる部門の教授・助教授は人事委員会メンバーにはならない」,「助教授や助手の人事委員会には助教授も人事委員になれる」など,優秀な人を選ぶための様々な工夫がなされています.公募の募集要項は,研究所ホームページ,雑誌広告,人材データベースなど多くの方法で広く宣伝されます.そして,応募者の中から人事委員会が書類審査で数人を選び,セミナー・インタビューに招待します.もちろん,旅費は遺伝研負担です.公開のセミナーには多くの教員や学生が参加し,質問やディスカッションが活発に行われます.「人事のセミナーである」ことを内外に知らせるわけではありませんが,「そんな宣伝をしなくても多くの聴衆が集まるような優秀な候補者を採用する」というのがねらいです.
 

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