Shared and unique patterns of genomic differentiation and introgression between Japanese stickleback species across three sympatric sites.
Okude, G., Yamasaki, Y.Y., Hosoki, T.K., Kanbe, H., Kakioka, R., Nagano, A.J., Kume, M., and Kitano, J.
Molecular Ecology (2026)DOI:10.1111/mec.70249
種分化が完成に近づくと、異なる種の間で交雑によって遺伝子を交換しながらも、それぞれの種のアイデンティティーは維持されるという「付かず離れず」の状態になります。この状態を理解することは、種分化が完成に至る過程を解明する上で重要です。近縁種が生息地を共有するような「同所生息地」は、この状態を理解する上での理想的な研究対象です。
生態遺伝学研究室の奥出絃太研究員(現・京都大学)と北野潤教授を中心とする研究チームは、北海道根室半島の沖根辺沼(おきねべ沼)において共存するトゲウオ科のイトヨ(Gasterosteus aculeatus)とニホンイトヨ(Gasterosteus nipponicus)について研究を行いました。この2種は同じ場所で繁殖しながらも生態が異なっており、安定同位体解析の結果、ニホンイトヨは海と川を行き来する遡河回遊型であるのに対し、イトヨは淡水に定住する残留型であることがわかりました。全ゲノム解析の結果、両種の繁殖場所は重なっているにも関わらず、高いゲノム分化が維持されていることが明らかになりました。さらに、イトヨとニホンイトヨの双方が遡河回遊型であるような他の同所生息地と比べて、遺伝子浸透しているゲノム領域の数は少なく、ゲノム全体で見ても強い分化が保たれていました。
これらの結果は、回遊様式の違いという生態的な違いが、強い生殖隔離をもつような種間においても、遺伝子流動を抑え、種の分化を維持する重要な要因となりうることを示しています。本研究は、生態分化と種分化の関係を理解する上で、新たな知見を提供するものです。
本研究は科研費(22KJ3096, 22K15168, 22H04983)やJST CREST(JPMJCR20S2)などの支援を受けて行われました。
北野教授のコメント「今回調査したイトヨの生息地を見つけたのは10年以上前のことです。この沼には、トミヨ属という別のトゲウオ科の魚もいます。濃霧の根室半島で、共著者の久米博士とこの小さな沼を見つけたとき、こんな小さな沼にトゲウオ三種が共存していることに驚き、何が起きているのかを解き明かしたいと思いました。このたび、奥出博士らと、イトヨは沼や川に残留していて、ニホンイトヨは太平洋へと回遊しており、この二種はまれに交雑しつつ共存していることが明らかになりました。今後は、これらトゲウオの隔離機構と共存機構を解明したいです。」

濃霧の沖根辺沼(おきねべ沼)に調査に向かう生態遺伝学研究室のメンバー。

沖根辺沼には、トゲウオ科のイトヨとニホンイトヨという近縁種が、稀に交雑しながらも共存している。トゲウオ科のトミヨ淡水型も沼に生息している。上がオス、下がメス。