2024/11/15

ゲーム理論の数理モデル解析により、人々の協力行動と環境の間の複雑な相互作用を解明

A complete classification of evolutionary games with environmental feedback

Hiromu Ito & Masato Yamamichi.

PNAS Nexus (2024). 3 (11): pgae455. DOI:10.1093/pnasnexus/pgae455

プレスリリース資料

国立遺伝学研究所新分野創造センター理論生態進化研究室の山道真人准教授と長崎大学熱帯医学研究所国際保健学分野の伊東啓准教授は、社会における協力行動が環境中の資源量と相互作用する一般的なゲーム理論の数理モデルを解析し、複雑なフィードバックがもたらす結果を明らかにしました。

ヒトを含むさまざまな生物では、他個体と協力する行動が広く見られます。個体が合理的に振る舞うと、集団全体にとっての最適な選択と一致しない「社会的ジレンマ」という葛藤がしばしば生じるにもかかわらず、なぜ協力行動は存在するのだろうか、という問いに答えるために、「進化ゲーム理論」が精力的に研究されてきました。

社会的ジレンマの代表的な例として、「共有地の悲劇」があります。これは、誰もが自由に利用できる共有資源(放牧場・漁場など)を各自が利己的に奪い合うことで、資源が過剰に消耗・枯渇してしまう状況を指します。共有地の悲劇は、漁業経済学や保全生態学でよく調べられてきました。共有地の悲劇を回避するためには、協力行動と環境中の資源量が互いに影響し合う「環境フィードバック」を取り入れた進化ゲーム理論の枠組み(図)が有効なアプローチとなります。しかし、先行研究は限られた社会的ジレンマの状況にのみ焦点を当てていました。

本研究では、環境フィードバックを考慮した進化ゲーム理論のもとで、全ての社会的ジレンマを網羅した理論的枠組み(数理モデル)を構築しました。これにより、初期状態に依存して協力が維持されて、共有地の悲劇を回避できる状況や、協力行動と資源量の間に周期的な変動が生じる状況など、複雑なフィードバック動態が幅広い条件のもとで起きることが明らかになりました。

このような一般的なモデルで得られた成果をもとに、環境問題や公衆衛生の問題など、個別の社会問題に特化したモデルを構築・解析することで、生態系と社会の間にある複雑な相互作用についての理解が深まり、両者を望ましい方向へ誘導できるようになると期待されます。

本研究は、JSPS科研費17H04731、19K16223、19KK0262、 20KK0169、21H01575、21H02560、22H01713、 22H02688、22H04983、23KK0210、NIG-JOINT(96A2023、73A2024)、Australian Research Council (ARC) Discovery Project (DP220102040)の助成を受けました。

図: 環境フィードバックを含むゲーム理論モデルの構造
人々の行動が環境(資源量)に影響し、環境が人々の行動に影響するフィードバックを表現している。


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