2024/07/09

種子が発芽する温度範囲を決める仕組みを解明
〜気候変動に対応した種子発芽制御技術への応用に期待〜

The MKK3 MAPK cascade integrates temperature and after-ripening signals to modulate seed germination

Masahiko Otani , Ryo Tojo , Sarah Regnard , Lipeng Zheng , Takumi Hoshi , Suzuha Ohmori , Natsuki Tachibana , Tomohiro Sano , Shizuka Koshimizu , Kazuya Ichimura , Jean Colcombet , Naoto Kawakami

PNAS (2024) 121, e2404887121 DOI:10.1073/pnas.2404887121

プレスリリース資料

種子が発芽する季節・タイミング(時季)は、種子自身が持つ休眠の状態と環境の温度の組合せによって決まります。種子成熟後の時間経過に伴う休眠性の低下は、発芽可能な温度範囲の拡大をもたらし、環境の温度がこの範囲に収まる時季に発芽します。種子は、本来と異なる時季に発芽してしまうと、個体の成長や種子生産がダメージを受けるため、生育に適したタイミングで発芽することが重要です。今回、明治大学農学部の川上直人教授、明治大学大学院農学研究科博士後期課程の大谷真彦(現:博士(農学)、明治大学研究・知財戦略機構 研究推進員)をはじめとする国際共同研究グループ(パリ-サクレー大学・フランス国立農業食料環境研究所のJean Colcombet博士、香川大学農学部の市村和也教授、国立遺伝学研究所の越水静助教ら)は、種子が発芽可能な温度範囲を決める仕組みを解明しました。この仕組みでは、酵母から植物、動物まで広く存在する細胞内情報伝達経路、MAPキナーゼカスケードが中心的な役割を持ち、発芽の適温でカスケードが活性化され、植物ホルモンの作用を調節して発芽を促し、発芽の温度範囲を決めていることを明らかにしました。このカスケードで働くタンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)の一つ、MKK3は、コムギやオオムギでは小麦粉やモルト(麦芽)の品質を大きく左右する穂発芽関連遺伝子です。今回の研究は、種子が温度を感知して発芽の時季を制御する仕組みの解明につながるだけでなく、温暖化に対応し、安定した作物生産を可能とする、種子発芽制御技術の開発への応用が期待されます。

本研究の一部は、文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(S1411023)、明治大学新領域創生型研究(#229831002)の支援を受けて行われたものです。

本研究成果は、米国科学アカデミーが発行する総合科学学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)」に掲載されました。

図: MKK3-MAPキナーゼカスケードは種子の休眠状態と環境の温度情報を統合し、植物ホルモン代謝酵素遺伝子の発現制御を介して発芽を制御する
Pは、各キナーゼがリン酸化された活性化型であることを示す。


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