2023/11/13

細胞内で光合成を飼いならす
―何度やっても同じ危機対応―

宮城島研究室・共生細胞進化研究室

Taming the perils of photosynthesis by eukaryotes: constraints on endosymbiotic evolution in aquatic ecosystems

Shin-ya Miyagishima

Communications Biology (2023) 6, 1150 DOI:10.1038/s42003-023-05544-0

真核生物による葉緑体つまり光合成能の獲得は、真核細胞内へのシアノバクテリア(光合成バクテリア)の一次共生(紅藻、緑藻、植物の共通祖先)の他、それによって生じた真核藻類の二次またはさらに高次の共生により(珪藻、渦鞭毛藻、ミドリムシなどのそれぞれの祖先)様々な系統で独立に何度も起きたことが知られています。また、細胞内に取り込んだ単細胞藻類の葉緑体を消化せずに数週間から数ヶ月間細胞内に保持し利用する生物(盗葉緑体性生物)、藻類を長期にわたって任意共生させる単細胞生物が多くの系統で発見されています。これらは環境によっては光合成性バイオマスの大部分を占めることもあり、二次または高次の共生による葉緑体伝搬の中間段階と見なされています。

光合成は有害な活性酸素種(ROS)を生じ、その量は強光下で増加し、場合によっては細胞死に至ります。また光合成装置の反応中心は光強度依存的に障害を受けるため、絶えず障害を受けた部品の交換が行われています。強光下では、ROSがこの修復を遅らせ、光合成活性が低下するだけでなく、修復が遅れるとさらに高濃度のROSが発生し、負の連鎖が起こります。これらの問題に対処するために、藻類や植物は様々な危機対応策を進化させています。これには、(1)細胞が移動し、細胞内に光吸収物質を産生し、または葉緑体の位置や向きを変えて、葉緑体に当たる光を減少させる、(2)高濃度のROSを発生する重度に損傷を受けた葉緑体を消化して取り除く、(3)核ゲノムと葉緑体ゲノムが協調し、光合成装置の構成を光強度に対して最適化する(4)ROSと光を感知して、これらの機構を調節するなどが含まれます。これらの機構は、一次共生由来の葉緑体を有する生物だけでなく、それぞれ独立に生じた二次共生由来葉緑体を有する生物においても独自に進化しています。

これまでに研究室で進めてきた研究内容と他の研究グループによる様々な系統の生物の研究結果をまとめ、比較しました。その結果、多種多様な系統でそれぞれ独立に何度も生じた盗葉緑体や光共生を行う生物も、(1)、(2)、(4)の機構を進化させており、一部の生物は(3)の機構も発達させていることが明らかになりました。さらに、藻食性の単細胞生物も(2)と(4)に対応する機構を独立に進化させていることが示されました。

この結果から、細胞内で光合成を行う真核生物は何度も独立に発生しましたが、光合成の毒性に対処するために、どの系統の生物もほぼ同じ機構を進化させたことが明らかになりました。さらに、光合成生物を細胞内に共生させ、葉緑体として利用するための機構は、藻類を捕食する段階から一時的な藻類細胞または葉緑体の保持の段階を経て漸進的に進化したことも示唆されます。

本研究は、日本学術振興会 科研費(20H00477)、科学技術振興機構 未来社会創造事業(22682397)の支援を受けました。

図:シアノバクテリア共生体起源の1次葉緑体、真核藻類の共生体起源の二次葉緑体を持つ単細胞生物と藻食、光共生性、盗葉緑体性の単細胞生物の例。
写真提供、大沼さん(神戸大)、岡田さん(遺伝研)。


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