2023/06/01

ヒト希少疾患を引き起こすRNAポリメラーゼIの遺伝子バリアントを同定

POLR1A variant- and tissue-specific effects underlie phenotypic heterogeneity in craniofacial, neural and cardiac anomalies

Kelly Smallwood, Kristin E.N. Watt, Satoru Ide, Kristina Baltrunaite, Chad Brunswick, Katherine Inskeep, Corrine Capannari, Margaret P. Ada, Amber Begtrup, Debora R. Bertola, Laurie Demmer, Erin Demo, Orrin Devinsky, Emily R. Gallagher, Maria J. Guillen Sacoto, Robert Jech, Boris Keren, Jennifer Kussmann, Roger Ladda, Lisa A. Lansdon, Sebastian Lunke, Anne Mardy, Kirsty McWalters, Richard Person, Laura Raiti, Noriko Saitoh, Carol J. Saunders, Rhonda Schnur, Matej Skorvanek, Susan L. Sell, Anne Slavotinek, Bonnie R. Sullivan, Zornitza Stark, Joseph D. Symonds, Tara Wenger, Sacha Weber, Sandra Whalen, Susan M. White, Juliane Winkelmann, Michael Zech, Shimriet Zeidler, Kazuhiro Maeshima, Rolf W. Stottmann, Paul A Trainor, K. Nicole Weaver

The American Journal of Human Genetics (2023) 110, 809-825 DOI:10.1016/j.ajhg.2023.03.014

近年、次世代シークエンサー技術の進歩により、症例が少なく診断が難しい疾患(希少疾患)のゲノムも比較的容易に解析できるようになりました。その結果、希少疾患の原因となりうる遺伝子の変異(バリアント)が次々と同定されています。今回、シンシナティ小児病院医療センターN. Weaver博士らが率いる国際共同研究チームは、遺伝病が疑われる患者グループのゲノム解析をおこないました。この解析により、研究チームはRNAポリメラーゼIの遺伝子変異を多数発見しました。RNA ポリメラーゼIはタンパク質翻訳装置であるリボソームの構成RNA(rRNA)を合成することが知られています。これらの遺伝子変異をもつRNAポリメラーゼIは、RNA合成活性が低下または過度に上昇しました。またRNAポリメラーゼIの細胞内局在にも異常がみられました。これらの異常により、顔面の骨の形成不全や心臓疾患、てんかん等の神経合併症など、さまざまな症状が引き起こされることが明らかになりました(図A)。今後、これらの疾患の確定診断や疾患モデルマウスを利用した対処療法や治療法の開発が期待されます。

遺伝研の貢献
ゲノムダイナミクス研究室 井手聖助教と前島一博教授は、N. Weaver博士らと共同で、今回の患者で見つかった9種類の変異を持つRNAポリメラーゼIのrRNAの合成活性とその細胞内局在を調べました。機械学習を用いた画像分類法を利用した結果、変異型RNAポリメラーゼIはrRNAの合成活性に応じて、RNAポリメラーゼIが集まる核小体内で異なる局在パターンを示すことがわかりました(図B)。このことは、機械学習を用いた核小体の形態解析によって、rRNAの合成活性が予測できる可能性を示しています。

遺伝研の貢献部分は文部科学省科学研究費補助金・新学術領域研究「非ドメイン生物学」(22H05606)、科学研究費補助金(21H02535, 19H05273 ,20H05936)などの支援を受けて行われました。機械学習の利用に関して、がん研究会がん研究所 斉藤典子部長の協力を得ました。

Figure1

図:(A)疾患モデルマウスの表現型(左:正常、右:疾患モデル)。ヒト希少疾患の原因変異をもつRNAポリメラーゼIの遺伝子(POLR1A)を組織特異的にマウス内で発現させている。その結果、頭蓋顔面骨形成の不全(上段)、大脳皮質の萎縮(中段)、心臓の肥大化(下段)が観察された。(B)ヒト培養細胞で発現した9つの変異型RNAポリメラーゼI(RNA Pol I)と正常型(WT)の画像(細胞核:シアン、RNA Pol I:ピンク)。それらの特徴を、機械学習の一つである画像パターン認識アルゴリズムwndchrmにより抽出し分類した(類似関係を示す系統樹)。この局在パターンによる分類が、RNA Pol IのrRNAの合成活性による分類(転写が上昇する変異:赤、転写が低下する変異:青、転写が変化しない変異:黒色)と一致した。


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