2022/10/03

コンパクトなクロマチン構造とDNAダメージ耐性

Chromatin organization and DNA damage.

K. Minami, S. Iida, K. Maeshima

The Enzymes “DNA Damage and Double Strand Breaks” 2022 September 27 DOI:10.1016/bs.enz.2022.08.003

Free link (2022.11.16まで) :

真核細胞のゲノムDNAは、ヒストンや関連タンパク質とともにクロマチンを構成して核の中に収納されています。近年の研究から、クロマチンは核の中でダイナミックに振る舞うドメインを構成し、様々なゲノム機能の単位として機能していることがわかってきました。

一方、細胞のゲノムは放射線などのDNA損傷源に絶えず曝されています。がん化や細胞死を引き起こしうるDNA損傷から、細胞はどのようにしてゲノムDNAを保護しているのでしょうか。 本総説では、ゲノムダイナミクス研究室からの研究成果 (Takata et al. “Chromatin compaction protects genomic DNA from radiation damage”. PLOS ONE (2013). DOI: 10.1371/journal.pone.0075622) をはじめとする最近の知見をもとに、ドメインの形成などを介したコンパクトなクロマチンの凝縮が、放射線や化学物質による損傷からDNAを保護する仕組みを議論しています。

さらに、生細胞でクロマチンのふるまいを計測する近年の成果をもとに、クロマチンが状況に応じてDNA損傷への耐性とダメージを受けたDNAの効率的な修復を両立している可能性が議論されています。1分子ヌクレオソームイメージングを用いた同研究室の成果 (Iida et al. “Single-nucleosome imaging reveals steady-state motion of interphase chromatin in living human cells” Science Advances (2022). DOI: 10.1126/sciadv.abn5626) から、クロマチンのゆらぎは細胞周期を通じて一定である一方、DNA損傷に応じて一時的に上昇することが明らかになりました。こうした一時的なクロマチン凝縮度の緩和により、損傷を受けたDNAに修復因子が容易にアクセスできる可能性が考察されています。

ゲノムダイナミクス研究室の南克彦・飯田史織 総研大生(共にSOKENDAI特別研究員)、前島一博 教授 の共同成果です。1970年創刊「The Enzymes」シリーズ(Elsevier)のVol. 51「DNA Damage and Double Strand Breaks」(2022年発行)の第3章として出版されます。

Figure1
図:(A) (左) 凝縮していない状態のクロマチンは、放射線によって発生するヒドロキシラジカル (活性酸素種、・OH) や化学物質 (抗がん剤、Pt) によるDNA損傷を受けやすい。(右) 高度に凝縮したクロマチンはこれらによるアタックを受けにくく、高いDNA損傷耐性を持つ。
(B) 細胞周期の間期を通じて一定に保たれているクロマチンの局所的ゆらぎ (“定常状態”、赤線) は、DNA修復反応の開始に応じて一時的に上昇する (赤破線)。この一過的なゆらぎの変化は、DNA修復に必要な因子のアクセシビリティ促進に寄与していることが示唆される。

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