糖資化性が乳酸菌の生態学的ニッチの構築と遺伝子交換に影響する。



Figure1

図の説明は文末

A sugar utilization phenotype contributes to the formation of genetic exchange communities in lactic acid bacteria

Shinkuro Takenaka, Takeshi Kawashima, Masanori Arita.

FEMS Microbiology Letters (2021) 368, fnab117 DOI:10.1093/femsle/fnab117

水平伝播 (HGT : Horizontal Gene Transfer)がより頻繁に起きる生物同士は、遺伝子交換コミュニティ(GECs : Genetic Exchange Communities)という高密度のネットワークを形成します。GECsは生態学的ニッチの共有、つまり同じ環境に生息することで形成され、細菌のゲノム進化に大きな影響を与えると考えられます。しかしながら、生態学的ニッチの共有によるGECsの形成メカニズムは、知見が蓄積されていません。

我々はGECsに対する生態学的ニッチの影響を理解するためには、細菌の表現型の調査が必要であると考えました。研究対象としては、発酵乳製品、肉、野菜などの生態学的ニッチに広く生息し、ゲノムや表現型が十分に調査されている乳酸菌の一種、Lactobacillaceae科を選びました。表現型とゲノムの特徴を調査して、どの要因がHGTの頻度に影響を与えるかの特定を試み、相同遺伝子とネットワーク分析により、Lactobacillaceae科の菌株がどのようにGECsを形成しているかを調査しました。

結果として、乳酸菌がもつ様々な糖を利用する能力である糖資化性が、GECsの形成に顕著に寄与することが分かりました。これらのネットワークは、Lactobacillaceae科が野菜、乳製品、醸造環境などのニッチを共有することにより、多種多様な発酵食品の生産に関わっているという事実と一致しています。

今回我々が得た知見は、生態学的ニッチにおける細菌の進化メカニズムの一端を明らかにしました。さらに研究を深め、複雑な微生物の進化の成り立ちの解明につなげたいと考えています。

この研究は、文部科学省科研費(17K19248)、NBDC統合データベースプロジェクト、NIG-JOINT(2020)、ROIS文理融合プロジェクト(2020-2021)によってサポートされました。 出版費用は総合研究大学院大学が部分的に負担しました。

冒頭の図: 16S rRNA遺伝子を基に作成したLactobacillaceae科に属する178株の系統樹。属ごとに色分けしている。次の5つの記号は、各菌株の表現型の特徴を示している。一番内側の三角形は15°Cでの増殖能、2番目の三角形は45°Cでの増殖能、3番目の星は微好気性、4番目の赤い三角形は通性嫌気性、5番目の円は偏性嫌気性を示す。塗りつぶされた記号は、菌株に表現型があることを、白抜きの記号は、表現型がないことを意味する。 また空白は、情報が得られなかったことを意味する。その次の赤い棒グラフは、資化できる糖の種類の数を示し、外側の青い棒グラフは、各株のタンパク質をコードしている遺伝子(CDS: coding sequence)の数を示している。紺色はHGTによって取得されたCDSの推定数を示し、水色はネイティブCDSの数を示す。

Figure1

図:乳酸菌のHGTのネットワーク。ノードは菌種を表しており、属ごとに色分けしている。エッジは5つ以上の相同遺伝子を共有している菌株間に引かれる。赤いエッジは糖資化性が高い菌株、青いエッジは糖資化性が低い菌株が優先的に持っている相同遺伝子の共有を示している。糖資化性が高い菌種は、遠縁で且つ生態学的ニッチを共有しているもの同士でGECsを形成している。


  • Twitter
  • facebook
  • youtube