抗甲状腺薬の重篤な副作用である無顆粒球症の新規リスク因子としてHLA-B*39:01:01を同定

HLA-B*39:01:01 is a novel risk factor for antithyroid drug-induced agranulocytosis in Japanese population

Saya Nakakura, Kazuyoshi Hosomichi, Shinya Uchino, Akiko Murakami, Akira Oka, Ituro Inoue, Hirofumi Nakaoka

The Pharmacogenomics Journal 2020 September 22 DOI:10.1038/s41397-020-00187-4

グレーブス病は自己免疫機構により甲状腺の活動性が亢進する疾患です。グレーブス病の治療として抗甲状腺薬の投与を受けた患者のうち、0.1%~0.5%に重篤な副作用である無顆粒球症という副作用が起こります。無顆粒球症とは血液中の顆粒球(主に好中球)が500/mm3以下に低下した状態を指し、免疫力の低下によって生命の危険を伴う重症感染症を引き起こす可能性があります。抗甲状腺薬の服用によって無顆粒球症が引き起こされるメカニズムはほとんど解明されていません。しかし、特定のタイプのヒト白血球抗原(HLA)遺伝子型が無顆粒球症の発症リスクに関連することから、免疫システムを介した細胞傷害が発症機序に関わっていると考えられています。

HLAは非常に多型性の高い遺伝子群であり、人種によって多型のパターンが大きく異なることが知られています。日本人集団において、無顆粒球症発症リスクに関連するHLA遺伝子型を網羅的に探索する研究は行われていませんでした。本研究では、我々の研究室で開発したHLA遺伝子配列決定法を用いて、新たな無顆粒球症発症リスク因子の同定を試みました。

抗甲状腺薬投与後に無顆粒球症を発症したグレーブス病の患者87例および無顆粒球症を発症していないグレーブス病の患者384例に対して、次世代シーケンサーを用いてHLA遺伝子配列を決定しました。統計解析、連鎖不平衡解析、ハプロタイプ解析を行った結果、HLA-B*39:01:01を新たな無顆粒球症発症リスク因子として同定しました。HLA-B*39:01:01と無顆粒球症発症リスクの関連について再現性を確認するため、他の研究グループによる先行研究からHLA-B*39:01:01の頻度情報を抽出して再解析を行いました。その結果、中国、台湾、ヨーロッパのいずれの集団においてもHLA-B*39:01:01が無顆粒球症発症リスクと統計的に有意な関連を示すことが確認されました。これらの結果から、HLA-B*39:01:01が集団を越えた無顆粒球症発症リスク因子であることを明らかにしました。本研究によって、抗甲状腺薬によって引き起こされる無顆粒球症においてHLAを介した過敏性反応が重要な役割を果たしていることが示唆されました。

本研究は国立遺伝学研究所・井ノ上研究室の中倉沙弥(総研大遺伝学専攻)が中心となり、野口病院、金沢大学、東海大学、佐々木研究所との共同研究として行われました。

Figure1

図:HLA-B*39:01:01と抗甲状腺薬によって引き起こされる無顆粒球症の関連についてメタ解析という統計手法によって評価した結果。台湾(Chen 2015)、中国(He 2016)、ヨーロッパ(Hallberg 2016)の3つの集団における先行研究からデータを抽出して再解析を行った結果、いずれの集団においても一貫して統計的に有意な関連が認められた。先行研究と本研究の結果を統合するメタ解析を行った結果、高度な統計的有意差をもって、HLA-B*39:01:01と抗甲状腺薬によって引き起こされる無顆粒球症の関連を支持するエビデンスが得られた。


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