2020/01/24

お米の成熟と品質制御にオートファジーが果たす役割

Essential roles of autophagy in metabolic regulation in endosperm development during rice seed maturation

Yuri Sera, Shigeru Hanamata, Shingo Sakamoto, Seijiro Ono, Kentaro Kaneko, Yuudai Mitsui, Tomoko Koyano, Naoko Fujita, Ai Sasou, Takehiro Masumura, Hikaru Saji, Ken-Ichi Nonomura, Nobutaka Mitsuda, Toshiaki Mitsui, Takamitsu Kurusu, Kazuyuki Kuchitsu

Scientific Reports 9, 18544 (2019) DOI:10.1038/s41598-019-54361-1

オートファジー(細胞内自食作用)は、真核生物に普遍的な細胞構成要素の分解や栄養リサイクルシステムです。動物などでは、発生、生殖、感染免疫・ストレスへの応答等に重要な役割を果たしますが、植物での役割の多くはよくわかっていません。
 本研究では、オートファジー能を欠損したイネ変異体で、種子の胚乳(用語解説)がくず米のように白濁することを発見しました(図A)。電子顕微鏡などを用いた解析から、胚乳の白濁は、微細化に伴う澱粉粒の空隙や小孔の増加であることがわかりました(図B)。変異体の胚乳では、澱粉分解に関与する酵素の発現と活性が高まり、逆に合成酵素群の量が低下した結果、澱粉量が低下する可能性が示唆されました。また、熱ショックタンパク質(用語説明)、酸化ストレス・高温ストレス応答関連因子などが増加していました。これらの結果は、オートファジーがイネの種子登熟過程において高温など環境ストレスと関連する可能性を示唆します。
 本研究成果から、将来的には植物のオートファジー活性の制御技術を開発することで、環境ストレスによる作物の収量・品質低下の防止に役立つと期待されます。
 本研究は東京理科大学を中心として、公立諏訪東京理科大学、新潟大学、産業技術総合研究所、国立遺伝学研究所、秋田県立大学、京都府立大学、国立環境研究所との共同研究で得られた成果であり、NIG-JOINT (84A2018)の支援を受けました。

用語解説
胚乳(はいにゅう):植物の種子を構成する組織の一つで、イネなどでは発芽に際して胚の成長に必要な養分を供給する。外表面を湖粉層(アリューロン層)に包まれ、内部は澱粉貯蔵細胞の柔組織となっている。

熱ショックタンパク質:細胞が熱ストレスなどを受けたときに発現が上昇し、細胞をストレスから保護する役割を果たすタンパク質の一群。他のタンパク質の構造形成を助ける分子シャペロンなどの機能が知られる。

Figure1

図:オートファジーが欠損したイネの種子でみられる胚乳の異常
(A) オートファジー欠損イネの種子は白濁し、品質が低下したくず米と同様の状態になる。(B) 米粒の断面図。オートファジー欠損イネの胚乳では、澱粉粒の微細化に伴う空隙や小孔(赤矢印)が多数観察される。


▶東京理科大のプレスリリース記事
「米の品質制御(イネ種子の発達・登熟)における細胞内自食作用(オートファジー)の役割を発見」
〜悪環境下における穀物の品質・収量向上技術の開発に向けた一歩〜


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