日本列島で生じたトゲウオの種分化の様子を全ゲノム配列から解明

The genomic landscape at a late stage of stickleback speciation: High genomic divergence interspersed by small localized regions of introgression

Ravinet, M., Yoshida, K., Shigenobu, S., Toyoda, A., Fujiyama, A., and Kitano, J.

Plos Genetics Published: May 23, 2018 DOI:10.1371/journal.pgen.1007358

種とは、お互いに交配して一つに混合してしまわないような集合体と定義されます(生物学的種概念による)。もともとは連続的であった集団から、どのようにして異なる種が生じるのか(種分化)は、進化生物学における重要な課題です。

遺伝子流動(2集団の間で遺伝子が交流すること)がある場合、種分化の初期の段階では、ゲノム(個体に存在するDNAの集合体)全体ではなく、限られた一部の配列のみが分化していくことが、近年のゲノム解析によって多くの分類群で示されてきました。その一方で、種分化の後期にどのようにして種分化が完成していくかについては多くが不明でした。特に、地理的に完全に分断されるなどの大きな出来事がない場合にどのように種形成が完成に向かうのかは大きな謎でした。

本研究では、日本に生息するトゲウオ2種(図参照)、太平洋岸を中心に生息するイトヨ(Gasterosteus aculeatus)と日本海を中心に生息するニホンイトヨ(G. nipponicus)について全ゲノム配列を利用してこの課題に取り組みました。この2種は、北海道の道東地域などでは、繁殖地を共有しており、頻度は低いものの交雑を続けていることから、種分化の後期に位置すると考えれています。我々はニホンイトヨの全ゲノム配列を既に決定の上、報告しています(Yoshida et al. 2014 PLoS Genetics 10: e1004223)。本研究では、まず、この2種が約68万年前に分岐を始めたこと、分岐後も程度は低いものの遺伝子の交流をほぼ連続的に続けながら分化してきたことを明らかにしました。次に、2種間のゲノム配列を比較すると、殆どのゲノム領域では分化が進行しているにも関わらず、一部のゲノム領域では遺伝子配列が似通っており(図参照)、このような分化の低い領域は遺伝子流動によることが明らかになりました。遺伝子流動は、組換え率の低い領域、特にネオX染色体(ニホンイトヨのみに存在するX染色体)で低いことも明らかになりました。遺伝子流動は、免疫関連遺伝子に多く、何らかの機能的な意義があるのではないかと推測されましたが、機能的意義に関してはさらに詳しい研究が必要です。

遺伝子流動を保持しながら種分化が後半まで到達した事例において、種間でのゲノム分化のパターンが解析された研究例が少ないことから、貴重な成果と言えます。今後、類似の研究が他の分類群で実施されることによって、本成果の普遍性が検証されることが望まれます。  

本研究は、学術振興会の助成を得て生態学研究部門・北野研究室(https://www.nig.ac.jp/labs/EcoGene/)に滞在中のMark Ravinet博士(現・オスロ大学)が中心となって、国立遺伝学研究所・比較ゲノム解析研究室、基礎生物学研究所・生物機能情報分析室との共同研究として実施したものです。科研費(23113007, 23113001, 221S0002, 15H02418)及び、国立遺伝学研究所共同利用-I (98I2017)などの支援を受けました。  

本成果は、PLoS Geneticsに掲載されました。  

Figure1

図:左は、イトヨとニホンイトヨのオス。右は、ある染色体(ここでは第10番染色体)に観察されたゲノムの分化のパターン。


  • Twitter
  • facebook
  • youtube