2017/11/02

チンパンジー親子トリオ(父親−母親−息子)の全ゲノム配列を高精度で解明

Press Release

Direct estimation of de novo mutation rates in a chimpanzee parent-offspring trio by ultra-deep whole genome sequencing

Shoji Tatsumoto, Yasuhiro Go, Kentaro Fukuta, Hideki Noguchi, Takashi Hayakawa, Masaki Tomonaga, Hirohisa Hirai, Tetsuro Matsuzawa, Kiyokazu Agata, Asao Fujiyama

Scientific Reports 7, Article number: 13561 (2017) DOI:10.1038/s41598-017-13919-7

プレスリリース資料

京都大学 高等研究院の松沢哲郎(まつざわ・てつろう)副院長・特別教授、自然科学研究機構 新分野創成センターの郷康広(ごう・やすひろ)特任准教授、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の藤山秋佐夫(ふじやま・あさお)特任教授、学習院大学 理学部の阿形清和(あがた・きよかず)教授(元 京都大学 理学研究科)らの研究グループは、京都大学霊長類研究所のチンパンジー親子3個体(父:アキラ、母:アイ、息子:アユム)の全ゲノム配列(遺伝情報の配列)を高精度で決定(解明)し、父親・母親それぞれのゲノムが子どもに受け継がれる際に起きるゲノムの変化を明らかにしました。今回の研究では、霊長類研究所において長期にわたる比較認知科学研究(通称「アイ・プロジェクト」)の中心となっているチンパンジーを研究の対象としました。

チンパンジーは、進化的に私たちの最も近縁であり、99%のゲノム情報を私たちと共有している「進化の隣人」です。しかし、残りの1%のゲノムの違いに、「ヒトをヒトに」「チンパンジーをチンパンジーに」した原因があると考えられています。本研究では、そのチンパンジーを対象として、進化の駆動力である新規突然変異が、親から子どもへとゲノムが伝わる過程でどのように生じているか、その詳細を明らかにしました。

全ゲノム配列を高精度に明らかにするために、チンパンジーゲノム(約30億塩基対)の約150倍にあたる4500〜5700億塩基対(新聞朝刊の約7000〜8000年分の文字数に相当)の配列の決定を3個体すべてに対して行い、1世代における新規突然変異率の推定やそのパターンを解析しました。本研究で得られたデータ量は、これまでのヒトを含めた個人ゲノム研究として前例のない大規模データになります。それらの大規模データの解析を行った結果、チンパンジーの生殖細胞系列では、1世代に生じる新規一塩基突然変異は1億塩基対あたり平均1.48個生じていました。この値はヒトで報告されている値(0.96~1.2)より高い結果でした。また父親(精子)由来が75%でした。さらに、高精度な配列を得たことにより、1世代で生じるゲノム構造変化(新規遺伝子交換や新規コピー数変異)の動態も高精度に明らかにすることができました。これらのゲノム構造変化は、ヒトゲノム研究においても、その詳細がいまだ充分に明らかにされていないため、今回の研究で開発した方法や得られた結果は、ヒトゲノムの構造変化を含めたよりダイナミックなゲノム変化を解析するための方法論も提示することができました。

本研究成果は英国時間11月1日午前10時(日本時間11月1日午後7時)に、英科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。

遺伝研の貢献
京都大学霊長類研究所から解析用試料の提供を受けて、遺伝研先端ゲノミクス推進センターにおいて大規模ゲノムシーケンシングによる塩基配列決定とその後の配列アセンブリング、個体間の配列比較などのゲノム情報解析をおこないました。

研究支援
本研究は、以下の研究事業、研究課題、研究助成による支援を受けて実施されました。 日本学術振興会「グローバルCOEプログラム」「研究拠点形成事業:先端拠点形成型」「博士課程教育リーディングプログラム」、科学研究費補助金「新学術領域研究:ゲノム支援」「新学術領域研究:ゲノム相関」「新学術領域研究:個性創発脳」「特別推進研究」「基盤研究(S)」「基盤研究(A)」「基盤研究(B)」「若手研究(A)」「若手研究(B)」「挑戦的萌芽研究」「特別研究員奨励費」、国立遺伝学研究所共同研究、京都大学霊長類研究所共同利用・共同研究、稲盛財団


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