植物内の“水の通り道”を広げる遺伝子、発見

細胞空間制御研究室・小田研究室

CORTICAL MICROTUBULE DISORDERING1 is required for secondary cell wall patterning in xylem vessels

Takema Sasaki, Hiroo Fukuda, Yoshihisa Oda

The Plant Cell, Published November 2017. DOI:https://doi.org/10.1105/tpc.17.00663

陸上の植物は地中の水分を根からくみ上げ全身に行き渡らせています。植物体内の水分は光合成などのあらゆる代謝に加え、体の体積を増やすための充填材として使われており、植物が葉を大きく広げ、高く生長していく上で必要不可欠なものです。この水分は植物体内で道管と呼ばれる中空の筒の中を通り、茎や葉の先端まで運ばれています。道管には壁孔と呼ばれる直径数ミクロンの微小な穴が開いており、道管内の水分は壁孔を通って道管から道管へ、さらには道管から葉や茎の細胞へと移動します(図左)。このように壁孔は植物の体のなかで水分の通り道となる重要な構造です。これまで、この壁孔の大きさが決まる仕組みはほとんどわかっていませんでした。

道管は、道管の元となる細胞が細胞の表面に厚く丈夫な細胞壁を沈着し、細胞内容物を消化することにより作られます。この道管の細胞壁の沈着が部分的に抑制されると壁孔が形成されます。植物細胞の表面には微小管と呼ばれる非常に細い繊維状の管が並列に規則正しく並んでおり、この微小管に沿って細胞壁が沈着します。これまでの研究により、道管の細胞では一部の微小管が分解されることにより細胞壁の沈着が抑制され、壁孔が作られることが分かってきました。しかしどのようにしてこの微小管の分解が制御され、壁孔の大きさが決まるのか未解明でした。

国立遺伝学研究所 小田祥久准教授らの研究チームは東京大学と共同で道管の細胞で働く遺伝子を網羅的に調べることにより、表層微小管の安定性を下げる新しいタンパク質を発見し、CORD1 (Cortical Microtubule Disordering1)と名付けました。このタンパク質は微小管に結合し、細胞表面での微小管の規則的な並びを乱し、分解されやすくすることにより、壁孔を作りやすくしていることがわかりました。CORD1を失った細胞では微小管が強固に並列に並び、分解されにくくなるために、壁孔が小さくなりました。一方、CORD1を過剰に発現させた細胞では微小管が散在し、分解されやすくなったために壁孔が大きくなりました。このように道管の細胞はCORD1の量によって微小管の壊れやすさを調節し、壁孔の大きさを決定していることがわかりました(図右)。CORD1の量を人為的に制御することができれば、植物内の水分の輸送効率を改変し、より早く育つ植物の作出が可能になるかもしれません。

微小管は道管細胞だけでなく、植物の体のほとんどの細胞で細胞壁の沈着を制御しています。微小管の並び方や分解されやすさは細胞壁の沈着の仕方に大きく影響し、その結果、細胞の形や役割にも影響します。これまでの研究では表層微小管を並行に並べる仕組みはよく研究されており、様々な遺伝子の働きが明らかとなってきました。しかし、今回発見したCORD1タンパク質のように微小管の配列を乱し分解されやすくするようなタンパク質の発見は世界で初めてです。この発見により、道管に加え、様々な植物細胞で細胞壁の沈着を制御する仕組みが見えてくると期待されます。

本研究は、東京大学大学院理学系研究科との共同研究として行われました。

本研究成果は、平成29年11月13日(米国東部標準時間)に米国科学雑誌The Plant Cellに掲載されました。

本研究は、文部科学省の科学研究費補助金 (16H01247, 15H01243, 15H05958)、日本学術振興会の科学研究費補助金16H06172, 16H06377)、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業さきがけ (JPMJPR11B3)、三菱財団、内藤記念科学振興財団の助成を受けました。

Figure1

(左)植物の体内において水分は道管を通して全身に運ばれます。道管内の水分は道管から隣の道管へ、さらに道管から茎、葉、根の体細胞へと壁孔を通して運ばれます。(右)CORD1の量が多いと細胞壁の沈着を促進する微小管の並び方がバラバラになり、大きな壁孔が作られます。逆にCORD1の量が少ないと微小管はしっかりと平行に並び小さな壁孔が作られます。

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