DNAは細胞のバネとしても働いている

 

「DNAの新たな役割」を提唱

Press Release

Nucleosome−nucleosome interactions via histone tails and linker DNA regulate nuclear rigidity

Yuta Shimamoto, Sachiko Tamura, Hiroshi Masumoto, and Kazuhiro Maeshima

Molecular Biology of the Cell April 20, 2017 DOI:10.1091/mbc.E16-11-0783

プレスリリース資料

情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の島本勇太准教授と前島一博教授らのグループは、細胞の核の「強さ」が産み出される仕組みを、物理の先端技術と生化学の研究手法をもちいて明らかにしました。この成果は、米国細胞生物学会誌であるMolecular Biology of the Cell誌に重要論文であることを示す「ハイライト」として掲載されました。

私たちの体を形成する細胞の核のなかには生命の設計図であるDNAが収められています。細胞および核は押されたり引っ張られたりして、絶えず物理的な力にさらされています。この力によりDNAが切れたりすると、細胞にさまざまな問題が生じます(図1)。これまで、細胞の核はその硬い殻の構造によって内部のDNAを守っていると考えられてきました。

本研究では、直径が髪の毛の百分の一ほど( 〜1ミクロン)の細いガラス針を使ってヒト細胞の核を直接触り(図2A)、力を掛けたときの核のゆがみを観察することで、核の「強さ」を計測しました(図2B)。その結果、核は力に対抗するための「硬さ」と「弾性」を合わせ持っていることがわかりました。さらに、この弾性力は、これまで考えられてきた核の殻の構造だけでなく、収納されたDNA自体によっても生み出されていることがわかりました(図3)。これまで遺伝情報のメモリデバイスとみなされてきたDNAが、核の弾性を支えるバネの役割を演じているのです。

力が加わることによって核に生じるゆがみとそれに伴うDNAの損傷は、細胞に「死」や「がん化」など、様々な異常をもたらすと考えられています。今回の発見は、このような細胞の異常が起こるしくみの解明につながることが期待されます。

本研究は、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所・島本勇太准教授、田村佐知子テクニカルスタッフ、前島一博教授と、長崎大学・増本博司講師との共同研究です。本研究の遂行にあたり、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「メカノバイオロジー機構の解明による革新的医療機器及び医療技術の創出」研究開発領域(研究開発総括:名古屋大学大学院 曽我部正博特任教授)(課題名「細胞核のマイクロメカニクスと機械受容メカニズムの解明」、研究代表者:島本勇太)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST) 「統合1細胞解析のための革新的技術基盤」(研究総括:東京大学大学院 菅野純夫教授)(研究課題名「超解像3次元ライブイメージングによるゲノムDNAの構造、エピゲノム状態、転写因子動態の経時的計測と操作」(JPMJCR15G2)、研究代表者:岡田 康志)、JSTテニュアトラック普及・定着事業、および科研費(15K14515、16H04746)の支援を受けました。

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図1 細胞には絶えず力がかかっており、バネ弾性がないとつぶれてしまい(右)、細胞の機能が損なわれて異常が起きてしまう。

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図2 (A) 核に2本の細いガラス針を刺し、引っ張る。(B) 核の変形とガラス針のたわみを顕微鏡で同時に観察して弾性を測定できる。

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図3 DNAが凝縮し塊を作ることによって、バネ弾性が産み出される(左)。DNAが引き延ばされたり(中央)、切れたりすると(右)、バネが弱くなる。核の中ではDNAは糸巻きであるヒストンたんぱく質に巻かれて、ヌクレオソームと呼ばれる構造をつくっている。