ヒト培養細胞の放射線耐性を向上させる新規タンパク質をクマムシのゲノムから発見

Press Release

Extremotolerant tardigrade genome and improved radiotolerance of human cultured cells by tardigrade-unique protein

Takuma Hashimoto, Daiki D. Horikawa, Yuki Saito, Hirokazu Kuwahara, Hiroko Kozuka-Hata, Tadasu Shin-I, Yohei Minakuchi, Kazuko Ohishi, Ayuko Motoyama, Tomoyuki Aizu, Atsushi Enomoto, Koyuki Kondo, Sae Tanaka, Yuichiro Hara, Shigeyuki Koshikawa, Hiroshi Sagara, Toru Miura, Shin-ichi Yokobori, Kiyoshi Miyagawa, Yutaka Suzuki, Takeo Kubo, Masaaki Oyama, Yuji Kohara, Asao Fujiyama, Kazuharu Arakawa, Toshiaki Katayama, Atsushi Toyoda, Takekazu Kunieda

Nature Communications 7, Article number: 12808 (2016) DOI:10.1038/ncomms12808

プレスリリース資料(東京大学 大学院 理学系研究科・理学部)

クマムシは、さまざまな極限環境に耐性を示す1mm未満の小さな動物で、ヒトの半致死量の約1000倍(4000 Gy)の放射線照射にも耐えます。しかし、こうした極限的な耐性を支える分子メカニズムはほとんど分かっていませんでした。

東京大学大学院理学系研究科の橋本拓磨特任研究員と國枝武和助教らの研究グループは、慶應義塾大学先端生命科学研究所の堀川大樹特任講師ら、国立遺伝学研究所等と共同で、クマムシの中でも高い耐性を持つヨコヅナクマムシの高精度なゲノム配列を決定し、クマムシに固有な多数の遺伝子を発見しました。これらのうちDsup (Damage suppressor) と名付けた遺伝子をヒト培養細胞に導入すると、放射線などによるDNA傷害が抑制され、放射線耐性が向上することが明らかになりました。これは、極限環境耐性をもつ動物の遺伝子を用いることで、他の動物の細胞に放射線耐性を付与した初めての例であり、これまでまったく知られていなかった放射線耐性の新たな戦略を明らかにしました。本研究グループはDsup以外にも多数のクマムシ固有遺伝子を見出しており、これらはクマムシの持つたぐいまれな耐性能力の基盤解明に貢献するとともに、有用な遺伝子資源として将来的には他の動物にもさまざまな耐性能力を付与する新規技術の開拓につながることが期待されます。

本研究は、東京大学大学院理学研究科 橋本拓磨特任研究員 國枝武和助教、国立遺伝学研究所生命情報研究センター 豊田敦特任教授、ライフサイエンス統合データベースセンター 片山俊明特任助教、慶應義塾大学先端生命科学研究所 堀川大樹特任講師 荒川和晴特任准教授らの共同研究の成果です。科学研究費補助金(特定領域研究「ゲノム」4領域 比較ゲノム 16064101、20017010、新学術領域研究「ゲノム支援」221S0002、基盤研究(B) 25281016, 16H02951、新学術領域研究「宇宙に生きる」16H01632)の支援を受けて実施しました。

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図1:本研究でゲノムを解読したヨコヅナクマムシ。
(A) 通常状態。ヒトの半致死量の約1000倍の放射線(4000Gy)の照射に耐える。
(B) 乾眠状態。外界の乾燥に伴い、ほぼ完全に脱水した乾眠状態に移行する。この状態では、放射線に加え、超低温、高温、真空、有機溶媒曝露などさまざまな極限環境に耐性を示す。給水により通常状態に復帰する。スケールバー、100μm

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図2:(A)細胞に4GyのX線を照射し細胞数を計数した。Dsupを導入した細胞(オレンジ色)のみ顕著に増殖したのに対し、Dsupの発現を抑制した細胞(紫色)および未導入細胞(青色)では顕著な増殖はみられなくなった。
(B)培養開始後12日目のX線を照射した細胞の位相差顕微鏡像。


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