2016/09/02

がんは腫瘍ホットスポットに生じる〜運命を左右する組織構造〜

Press Release

Epithelial tumors originate in tumor hotspots, a tissue-intrinsic microenvironment.

Yoichiro Tamori, Emiko Suzuki, Wu-Min Deng

PLOS Biology Published: September 1, 2016 DOI:10.1371/journal.pbio.1002537

プレスリリース資料

国立遺伝学研究所の田守洋一郎助教とフロリダ州立大学のウーミン デン教授の研究グループは、がん細胞が上皮組織内の特定の場所(腫瘍ホットスポット)で腫瘍形成を始める仕組みを明らかにしました。

過去数十年間にわたるがん研究の積み重ねから、がん遺伝子や、がん抑制遺伝子の変異ががんの原因になること、そして、変異細胞(前がん細胞)が正常な上皮組織に出現して異常に増殖すると腫瘍が生じることなどが明らかにされてきました。しかし、この異常な増殖が始まるがん最初期段階の仕組みはよくわかっていませんでした。

本研究では、モデル生物であるショウジョウバエの上皮組織において、前がん細胞が腫瘍形成を起こす場所(腫瘍ホットスポット)と起こさない場所(腫瘍コールドスポット)があることを発見しました。組織の大部分を占めるコールドスポットでは、前がん細胞は上皮組織から排除されて死んでいくのに対し、ホットスポットに出現した前がん細胞は上皮組織からはみ出て異常な増殖を開始します。また、ホットスポットでは組織構造がもともと少し異なっており、この違いが前がん細胞の運命を左右していることがわかりました。組織構造の少しの違いが前がん細胞の運命を左右するという考えは今までになかったものです。この新しい発見によって、がん発症の仕組みの理解がさらに進むものと期待されます。

本研究は国立遺伝学研究所 構造遺伝学研究センター 遺伝子回路研究室の田守洋一郎助教が中心となり、フロリダ州立大学のウーミン デン教授との共同研究として行われました。本研究の遂行にあたり、国内では、文部科学省科研費 研究活動スタート支援(26891025)、萌芽研究(15K14386)、新学術領域研究「細胞競合」(15H01500)、上原記念生命科学財団による支援を受けました。

Figure1

腫瘍ホットスポットで腫瘍が形成される仕組み。
(A)上皮組織の腫瘍コールドスポットに現れた前がん細胞(緑色)は、基底側から押し出されて細胞死を起こして組織から排除される。
(B)腫瘍ホットスポットに現れた前がん細胞は、頂端側からはみ出る。ホットスポットの頂端側には発がんに関与するシグナル(JAK/STAT経路)の活性化因子(Upd:赤)がもともと多く分泌されており、前がん細胞はUpdを取り込むことによって異常な増殖を始める。紫:基底膜。


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