2016/08/27

細胞分裂の司令塔「中心体」の成熟過程を解明

Press Release

Cep295 is a conserved scaffold protein required for generation of a bona fide mother centriole

Yuki Tsuchiya, Satoko Yoshiba, Gupta Akshari, Koki Watanabe, Daiju Kitagawa.

Nature Communications 2016 Aug 26;7:12567 DOI:10.1038/ncomms12567.

プレスリリース資料

細胞が分裂するとき、染色体は糸のような繊維によってそれぞれ引っ張られ、2つの細胞に分配されます。その繊維の伸びる起点となるのが、中心体と呼ばれる細胞内小器官です。通常、1つの細胞に中心体は1つしかありません。しかし、細胞分裂時には中心体が「複製」されて2つになり対極に分かれることで、染色体を引っ張ることができます。もし中心体の複製が失敗すると、染色体を適切に分配できず、細胞分裂に支障が出ることによって、がんなどの病気になりかねません。中心体が適切に複製される仕組みの全容解明が求められています。

中心体は、柱状の部品である「中心小体」が2個組み合わさって形作られています。2個の中心小体のうち、片方が「完成された」母中心小体で、もう一方が「未完成の」娘中心小体です。中心小体の複製では、母中心小体の根元から生み出された娘中心小体が母中心小体へと成熟することが不可欠でした。

今回、国立遺伝学研究所の北川大樹教授、土屋裕樹大学院生らのグループは、娘中心小体の成熟を制御する最上流因子(Cep295)を発見しました。この因子は中心小体の成熟の初期段階で働いていて、Cep295の活性がその後の主な成熟過程に必須であること、Cep295は成熟過程に必要な既知の因子Cep192と結合することで機能することが明らかになりました。

中心体が複製される仕組みの解明は、中心体の異常に起因する様々な病気の原因解明に役立つことが期待されます。今後は、これらの知見をもとにがんの阻害剤となる化合物を探索し、新しい作用機序をもつ抗がん剤の開発を目指します。

本研究は、日本学術振興会 特別研究員奨励費、科学研究費補助金・新学術領域研究(研究領域提案型)、科学研究費補助金・若手研究(A)、JST(生命科学の新分野創造若手育成プログラム)、武田科学振興財団、内藤記念科学振興財団の支援により行われました。

Figure1

図1. 本研究成果の概略図:中心体は分裂期に対極に分かれて紡錘体と呼ばれる糸状の微小管束を生成し、染色体を引っ張ることで細胞分裂を正しく導きます。本研究では、娘中心小体が成熟し中心体としての機能を獲得する過程を明らかにしました。

Figure1

図2. モデル図:Cep295は物理的な相互作用を介してCep192を娘中心小体へとリクルートする。その後、娘中心小体は成熟し、中心体としての機能を獲得する。Cep295がない場合、未熟な中心小体はPCMや微小管形成中心としての機能、さらに新しい中心小体を産み出す能力を獲得できずにやがて消えてしまう。


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