記憶や学習能力のベースラインは子ども時代につくられる!─スパインの形態を調整するたんぱく質と、そのしくみを解析─

Press Release

Developmental RacGAP α2-Chimaerin Signaling Is a Determinant of the Morphological Features of Dendritic Spines in Adulthood

Ryohei Iwata, Hiroshi Matsukawa, Kosuke Yasuda, Hidenobu Mizuno, Shigeyoshi Itohara, Takuji Iwasato

The Journal of Neuroscience 7 October 2015, DOI:10.1523/JNEUROSCI.0419-15.2015

プレスリリース資料

記憶や学習などの脳機能は、神経細胞が無数につながった回路内で、情報がやりとりされることで発揮されます。神経細胞の樹状突起には「スパイン」とよばれる小さな棘状の構造があります。マウスを用いた研究では、記憶が形成される際にその記憶に使われるスパインの形態(大きさと数)が増大し、逆に使わない回路のスパインは小さくなり数も減ります。また、自閉症や統合失調症などの患者さんの脳の多くで、スパイン形態の異常がみつかっています。これらの知見は、スパインの形態が脳機能に重要な影響を及ぼすことを端的に示しています。一方で、「どのような分子が、いつ、どのようにはたらくことで、スパインの形態を制御しているのか」についての知見は不足しています。加えて、スパインの形態はおとなになってからも柔軟に変化するために、「おとなのスパインが、子どもの時(発達期)のスパイン形成によって、どのように、どのくらい影響を受けるのか」といったことも謎のままでした。

今回、国立遺伝学研究所 形質遺伝研究部門の岩田亮平研究員・岩里琢治教授らは、理化学研究所脳科学総合研究センターの糸原重美チームリーダーらとともに自ら作製した複数種類のノックアウトマウスを解析し、スパインの形態形成に「α2キメリン」というタンパク質が関与していることを発見しました。さらに、このタンパク質が、子どもの時(発達期)の脳ではたらくことで、おとなになってからのスパインの形態と脳機能(記憶力)を調節していることも突き止めました。このような本研究の成果は、脳発達の理解や、自閉症などの病態解明にも役立つと期待されます。

今回の研究は、国立遺伝学研究所形質遺伝研究部門 岩里琢治研究室の岩田亮平研究員(元総研大大学院生)が中心となり、国立遺伝学研究所と理化学研究所脳科学総合研究センター行動遺伝学技術開発チームの共同研究として行われました。
また、この研究は、科学研究費補助金(新学術領域研究「適応回路シフト」(15H01454)、「メゾ神経回路」(22115009)、基盤研究B(15H04263)、基盤研究B(20300118)、特別研究員奨励費(11J03717))、国立遺伝学研究所共同研究(A, B)、FIRSTプログラム、三菱財団、上原記念生命科学財団、内藤記念科学振興財団、山田科学振興財団の支援により行われました。

Figure1

α2キメリンノックアウトマウスの海馬で、スパインの大きさと数の増大が観察された。同様の表現型は、生後10日目からα2遺伝子をノックアウトしたときにも観察されたが、おとなになってからノックアウトした場合にはスパインは正常であった。また、α1キメリンノックアウトマウスでもスパインは正常であった。したがって、生後10日目以降の発達期にα2キメリンがはたらくことによって、おとなでのスパインの大きさと数が抑制され、結果として適度に保たれることがわかった。