2015/04/02

プロテオミクスによるクロマチンコード情報の解読

生体高分子研究室・前島研究室

End-targeting proteomics of isolated chromatin segments of a mammalian ribosomal RNA gene promoter

Ide, S. and Dejardin, J.
Nature Communications, 6, Article number: 6674, DOI: 10.1038/ncomms7674

ゲノムが記憶する遺伝情報をどのように使うのか、その役割を担っているのはクロマチンです。その実体はDNAがヒストンに巻き付いてできるヌクレオソームとそこに相互作用する転写因子などの結合タンパクです。各塩基配列上のクロマチンコード情報の解読は、個体の発生や疾患の原因解明のための大きな手がかりとなります。

Proteomics of isolated chromatin segments (PICh) 法は、質量分析法を用いて、特定のDNA配列に相互作用する因子を網羅的に同定する方法です。人工核酸プローブを核抽出液に混ぜ、プローブと相補鎖である配列に複合体を形成させることで、その領域をクロマチンごと特異的に回収します。この方法により、単純な塩基配列の繰り返し[(TTAGGG)n]からなるテロメア領域のタンパクを精製し、質量分析装置で網羅的に同定することが可能でした。しかしながら、複雑な塩基配列からなる遺伝子やその制御配列に適用できませんでした。

今回、人工核酸プローブのデザインの至適化とクロマチン調製の改良により、遺伝子領域に適用可能なPICh法のグレードアップに成功しました。連続した2つのプローブがDNAの切断末端に結合してはじめて安定に維持されることから、クロマチン断片を制限酵素で切断することで、末端配列を人為的にコントロールし、目的の領域の制限部位の周辺に結合するプローブを作成する工夫をしました(DNA断片の末端を狙う戦略に因んでEnd targeting PICh: ePICh法と命名)。ePICh法を哺乳細胞のガン化や老化に関連するリボソームRNA遺伝子のプロモーター配列に応用したところ、転写開始前複合体や新規機能性タンパクも含めた多数の分子群を同定できました。ePICh法を応用すれば、あらゆる生物から、多くの塩基配列上のクロマチンコード情報を包括的に抽出することが可能になり、今後、エピジェネティクス研究を加速させることが期待されます。

本研究は、本研究所とフランス国立科学研究センター人類遺伝学研究所で行われました。

Figure1

ePICh法のための人工核酸プローブデザインの秘訣。ターゲット配列近くの制限酵素認識部位周辺に、連続した二つ以上のプローブを作成する。プローブ結合部位がDNA断片の末端に位置する場合、ハイブリダイゼーション後に、解離したもう一方の鎖の再アニリーングする力が弱くなるため、プローブが二本鎖DNA内に安定にとどまる。


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