RNAヘリカーゼによるグリシン作動性シナプス制御と行動制御

運動神経回路研究室(平田研究室)

Defective escape behavior in DEAH-box RNA helicase mutants improved by restoring glycine receptor expression Hirata, H., Ogino, K., Yamada, K., Leacock, S. and Harvey, R. J.
J. Neurosci. 33: 14638-14644 (2013). doi: 10.1523/​JNEUROSCI.1157-13.2013

RNAヘリカーゼと言えば、からまったRNA鎖をときほぐすための酵素と思われがちです。しかし実際のRNAヘリカーゼの機能はRNA合成、pre-RNAスプライシング、翻訳、リボソーム生合成、RNA分解など多岐に渡り、RNAが関わるあらゆる細胞内イベントに関わる酵素であると言えます。RNAヘリカーゼは6種類のサブグループ(DEAD box型やDEAH box型など)に大別され、ヒトでは計70以上のRNAヘリカーゼが同定されており、それらで全てのRNAイベントをカバーすると考えられています。いくつかのRNAヘリカーゼについては基質が報告されていますが、そもそも各RNAヘリカーゼに(E3ユビキチンリガーゼのような)基質特異性があるのか、各RNAヘリカーゼに固有の生理的機能があるのかなど不明な点が多く、RNAヘリカーゼの世界は謎に満ちています。

私たちはゼブラフィッシュの運動・行動異常を指標にして、グリシン作動性シナプス伝達に異常のある変異体をスクリーニングし、DEAH box型RNAヘリカーゼDhx37のゼブラフィッシュ変異体を得ました。電気生理学的解析から、Dhx37変異体ではグリシン作動性シナプス伝達が顕著に低下していることが分かりました。さらに詳細な解析から、Dhx37は特定のグリシン受容体αサブユニットのRNAに結合し、スプライシングを制御することで、グリシン受容体タンパク量、グリシン作動性シナプス伝達量を規定することが解明されました。この研究により、RNAヘリカーゼに明確な基質特異性・生理機能があることも確認されました。ヒトでグリシン作動性シナプス伝達の低下はhyperekplexia(通称:ビックリ病)という、突然の刺激による過剰な驚愕応答を特徴とする行動異常疾患を引き起こすことが知られています。家族性hyperekplexiaの原因遺伝子としてグリシン受容体遺伝子の変異が知られていますが、家族性で原因遺伝子が不明なものも依然多く、その解明が待たれます。今回の発見はDhx37がhyperekplexiaの新しい原因遺伝子であることを提唱するものでもあります。

また、細胞運命の維持にはH3K27のメチル化が関与する事が以前から知られていた。私たちは、ceh-22遺伝子へのHTZ-1の局在はH3K27脱メチル化酵素UTX-1の阻害で減少すること、HTZ-1とH3K27メチル化のゲノム上の局在には負の相関があることを示し、HTZ-1はUTX-1によってメチル化が除かれた場合に、転写抑制を行うことで細胞運命を維持している事を示唆した。H3K27のメチル化による安定した転写抑制と異なり、BET-1やHTZ-1は、分化を促すシグナルによって転写が簡単に誘導されるような遺伝子の、シグナルに依存しない転写を抑制していると考えられる。

この研究は関西学院大学・柴田博士、西脇博士との共同研究として行なわれました。

図:ゼブラフィッシュ稚魚をピンセットでつつくと逃避行動が見られ、正常な個体(Wild-type)の場合、体を側方に大きく曲げます。Dhx37に変異のある稚魚(Dhx37 mutant)の場合、体を側方ではなく背側に曲げます。これはグリシン作動性シナプス伝達に異常のある稚魚で特徴的に見られる左右同時の筋収縮によるもので、hyperekplexiaで見られる驚愕応答のサカナ版であるといえます。


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