2013/07/19

太平洋クロマグロ全ゲノムを解読、クロマグロは微妙な青緑色の違いを認識

Press Release

遺伝情報分析研究室・五條堀研究室

Evolutionary changes of multiple visual pigment genes in the complete genome of Pacific bluefin tuna
Yoji Nakamura・Kazuki Mori・Kenji Saitoh・Kenshiro Oshima・Miyuki Mekuchi・Takuma Sugaya・Yuya Shigenobu・Nobuhiko Ojima・Shigeru Muta・Atushi Fujiwara・Motoshige Yasuike・ Ichiro Oohara・Hideki Hirakawa・Vishwajit Sur Chowdhury・Takanori Kobayashi・Kazuhiro Nakajima・Motohiko Sano・Tokio Wada・Kosuke Tashiro・Kazuho Ikeo・Masahira Hattori・Satoru Kuhara・Takashi Gojobori・Kiyoshi Inouye
PNAS July 2, 2013 vol. 110 no. 27 11061-11066 doi: 10.1073/pnas.1302051110

プレスリリース資料

水産総合研究センター、東京大学、九州大学と行ってきた共同研究の成果が、6月18日付けの米国科学アカデミー紀要オンライン版に掲載されました。

太平洋クロマグロの全ゲノムを解読し、他の魚類とは異なり、青~緑色がよく見えるように視覚の遺伝子が進化しているという特徴を明らかにしました。

独立行政法人水産総合研究センター(FRA)では、平成21年度より東京大学、九州大学および国立遺伝学研究所と共同で、世界初となる太平洋クロマグロ(以下「クロマグロ」)の遺伝情報全体であるゲノムの全ての塩基配列の解読に取り組み、クロマグロの全ゲノムの解読に成功しました。
 解読したゲノムの解析により視覚にかかわる遺伝子にクロマグロに特有の特徴を発見しました。これは、海洋表層を高速で泳ぎ回るクロマグロが、赤色の乏しい海中の景色の中で微妙な青緑色の違いを認識できることを示していると考えられます。
本成果は、クロマグロの行動特性に関する基礎的な知見を与えるものであり、今後のまぐろ養殖生産技術の改善にもつながるものです。


図1 クロマグロおよび他の魚種のゲノム上に存在する可視光感受性オプシン遺伝子。緑オプシン遺伝子(左)、青および赤オプシン遺伝子(右)。図中の遺伝子の色は吸収する可視光の色に対応し、向きは転写の方向を示します。
同色のオプシン遺伝子であっても各オプシン遺伝子の吸収波長は微妙に異なるため、ロドプシン遺伝子数の増加により、より微妙な色の違いが認識できるようになると推定されます。
フグ類2種の黄緑色は、緑オプシンの機能を失った偽遺伝子であることを表します。また、青色と赤色のオプシン遺伝子はゲノム上で隣り合って存在しています。灰色の遺伝子はオプシンとは無関係の遺伝子ですが、縦線で結ばれたものは各魚種で保存されている遺伝子同士であることを示しています。

図2 クロマグロの5つの緑オプシン遺伝子の推定進化シナリオ。両図とも上から下(現代)に年代が進行します。(①の進化が生じたのは約2億年前と推定)。 A/BはAとBの共通の祖先を、系統樹中の①-③の数字は、遺伝子の倍加が起こったことを示します。③では2つの遺伝子が同時に倍加して4つになったと推定されています。点線の矢印は遺伝子変換(gene conversion)のイベントを示します。 それぞれのイベントに対応する遺伝子構造の変化を図の右側に示しています。各イベント(遺伝子重複:i,ii,iv、遺伝子変換:iii)に対して、起きた時期が推定されています(単位は百万年前=Mya)。


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