Dr. Mark Ravinet

Mark Ravinet 研究員 生態遺伝学研究室 北野研究室

質問1 現在されている研究について教えてください。

進化生物学者として、特に自然選択が種分化や適応進化の過程にどのような影響を与えているか研究を進めています。進化について考えるとき、大多数の人が自 然選択を思い浮かべるでしょう。自然選択が適応に重要なことはよく知られていますが、自然選択や適応が種分化に重要であることがよく理解されるようになっ たのは割と最近です。

種の進化には遺伝子流動の欠如が不可欠です。遺伝子流動の障壁が進化すると、種分化が起こります。異なる生態系に生息する個体群間の強い分断選択は、生態 的種分化を急速に起こします。生態的種分化が遺伝子流動を減少させているとはいえ、解明されていないことがまだまだたくさんあります。分断選択はいかにゲ ノムに影響を与えるのか。生態学的な選択は、逆行できない種分化を引き起こすのに十分なのか。

これらの質問に対する答えが出せる今こそが、この分野に従事する若手研究者に絶好のチャンスです。ハイスループット解析技術のコストが低くなったことによ り、何千もの遺伝子マーカーの遺伝型を決定したり、全ゲノムの再シークエンスをしたりすることでさえできるようになりました。この種のデータを用いて分断 選択のテストをしたり、候補遺伝子を同定したり、遺伝子流動を計測したり、また個体群の歴史を推定したり、その他いろいろなことが可能になりました。

現在所属する生態遺伝学研究室では、イトヨ(Gasterosteus aculeatus) を用いて種分化や適応進化の分子機構について研究しています。トゲウオの祖先は海水魚でしたが、過去20000年の間に北半球の淡水に繰り返し、かつ、そ れぞれに独立に淡水環境へ侵出してきました。つまり多くの異なる集団が、平行的に淡水に適応したわけです。また、生態的種分化によって多くの種が出現した と考えられているのです。

しかしながら、日本には他に類を見ない、高度な系統分岐から成る海水魚であるトゲウオが存在します。この仮説はまだ検証されていませんが、恐らく日本海が分離したおよそ150万年前、太平洋と日本海のトゲウオが分岐したと考えられます。

そこで、全ゲノム配列と集団ゲノムデータを利用して、これら二系統の進化の歴史を再構築しているところです。ゲノム中の分岐時期が、150万年前に日本海 が分離したとする仮説と矛盾しないかどうか確かめたいからです。生態遺伝学研究室では、このシステムを利用して、性染色体の進化や形質分化の遺伝基盤など 多くの異なる観点から考察しているので、種分化の状況や祖先集団の人工学的な背景をより良く理解することが、大変重要となります。

Mark Ravinet 研究員 01

このトゲウオの系統間の分岐はかなり進んでいますが、系統間で遺伝子流動が起こったことはかなり明白なようです。そこで僕は集団ゲノムデータを利用して、 遺伝子流動は比較的最近起きたことなのか?または、古代に分岐の経過の中で起きたことなのか?という疑問に答えるために、遺伝子流動の程度と選択圧につい て、これら二系統について広く比較しています。

こういった疑問に集団ゲノムデータを応用することに関して、現在はまだ揺籃期といえます。例えば、集団ゲノムマーカーについて、たくさんの前提が考えられています。

2012年に博士課程を修了して以来、僕は集団ゲノムのデータ解析を行ってきました。トゲウオ系統に関する研究に加え、ハイスル-プット解析データを利用して、海生巻貝の一種であるホッキョクタマキビ(Littorina saxatilis) の、スウェーデンでの個体群における平行進化を探っています。新しい手法を試行したり、より詳しく理解することに興味があり、遺伝研とスウェーデンで行っ ている研究では、これらの手法を用い潜在的な課題を明らかにしています。トゲウオ系統間の遺伝子流動やホッキョクタマキビの平行移動が何に起因するか解明 するため、そしてうまくいけば、難問を打開できるような新しい方法を開発するために、現在シミュレーションデータを利用して研究を進めています。

質問2 遺伝研を知ったきっかけを教えてください。

Mark Ravinet 研究員 02

日本学術振興会(JSPS)の外国人特別研究員として、2012年に初めて遺伝研に来ました。
JSPSの研究員募集を知った前日に、たまたま日本のトゲウオに関する北野先生の論文を読んだところだったのです。種分化の原因となる生態的分岐について 検証がなされているのか知りたくて、北野先生に連絡をしてみたところ、その検証をするためのポスドクを北野先生もちょうど必要としていたことが分かりまし た。
当初の任期が満了した後一度ヨーロッパに戻りましたが、今度は長期間の研究員枠に採用となりました。今年再び遺伝研に戻ってきたときは、本当に嬉しかったです。

ところで、以前から~間接的にですが~遺伝研の存在を知っていました。集団遺伝学を勉強するうえで、木村資生先生や太田朋子先生の業績は広く知られていた からです。でも北野研が、中立進化説が打ち立てられたのと同じ研究所内にあるということに気づいたのは、北野先生とコンタクトを取ってからなんですよ!

質問3 遺伝研の魅力は何だと思いますか。

ここでは自分の研究を自由にすることができます。研究室の規模は大きくありませんが、所属する研究員は才能豊かです。日頃からいろいろな問題についてディスカッションしており、大いに知的刺激を受ける環境です。
遺伝研にはあらゆる観点から遺伝学の研究を専門とする研究者が多数います。彼らと話をすると、違った視点から自分の研究を新しい方向に導いてくれることも あり、とても有益です。もともと生態学と進化が専門だったため、セミナーやジャーナルクラブを通して、専門外の知識を多く吸収できるのも楽しいですね。

質問4 三島市の印象を聞かせてください。

周りの人たちは、三島は静か過ぎると口を揃えて言いますが、僕は大好きです!確かに小さな街ですが、スウェーデンの孤島に住んだ経験から、三島には何もな いなんてとても思えません。繁華街に住んでいるので、周りにレストラン、バーやカフェなどがたくさんあり、活気を感じます。その割には昔から住んでいる方 も多いようで、僕を見ると結構びっくりされます。

言うまでもなく、日本は自分が生まれ育った英国とはまったく違うので、日々新しい発見があります。日本語が話せないのに三島で暮らすことは、少し難しい面 もありますが、常に何か新しいことを学んでいると思えば楽しめます。行くたびにプレゼントをくれる理容室のおじいさん・おばあさんや、道ばたで地図を拡げ ていると必ず声をかけてくれる地元の方たち・・・エピソードを挙げだしたら、きりがないほどです。

質問5 休日はどのように過ごしていますか。

撮影: James Dorricot

日本で過ごす時間を研究室でじっとしているだけに費やしたくないので、ランニングや水泳、そしてサイクリングなど、かなりアクティブに過ごしています。仕事の後に運動するとリラックスできるし、研究のことを考える有効な時間にもなります。
遺伝研の外にいい仲間がいて、三島にある行きつけのアイリッシュパブで一緒によく飲んだりもします。

また旅行もします。日本語も少しずつですが上達しているので、外国人観光客が行かないような鄙びた場所へもどんどん行けるような自信がついてきました。
旅行するとき、本当は裏の目的があるんです。前回の滞在でラーメンの大ファンになってしまい、電車で二時間くらいかけて有名なラーメン屋を探訪するのは、知る人ぞ知る話です。

質問6 将来の目標は何ですか。

とても難しい質問ですね!研究から得られる達成感に大満足しているので、自分が研究以外の何かをしていることは想像できません。このまま高いレベルまで、研究者としてのキャリアを積んでいきたいと思っています。
そして究極の目標は、自分の研究課題を徹底的に追究できるように、自身の研究室を持つことです。現在のPIである北野先生は、そういったキャリアを求める上でのいいお手本です。

充実したキャリアはもちろんのこと、満たされた人生を送りたいですね。研究に打ち込むだけの生活はしたくないです。
僕にとってのヒーローの一人であるチャールズ・ダーウィンは、我々の発想を転換しました。彼は生涯にわたり学び、そして考察していました。と同時に、家族 と幸せな一生を送りました。彼のように世界を変えるのは難しいですが、生涯考察し続けることと幸せな家庭を持つことは実現できるんじゃないかなと思います。

音声おこしおよび翻訳:三浦智香子(総務・教育チーム)

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