
今や生命科学、医学の研究において、ヒトのモデル動物としてマウス(ハツカネズミ)の存在は欠かすことができない。人為的に遺伝子を破壊したり改変したり、あるいは自然に生まれた突然変異体を解析することで、表現型と遺伝型との関係を調べる。その結果明らかになった関係が、ヒトでも見られるのかを調査する。そうやって、ヒトについての理解を深めていくのだ。
現在400系統以上存在する実験用マウス。そのほとんどはヨーロッパ産マウスを元にアメリカで生まれたものだ。「残念ながら、これまで日本人の手で遺伝学のリソース(材料となる生物モデル)をつくりあげたことは、ほとんどありません」。マウスだけでなく、線虫、ショウジョウバエ、シロイヌナズナ・・・代表的なモデル生物はみなアメリカやヨーロッパが発祥だ。「まずは自分たちでリソースをつくろう」。そう考え、城石さんが注目したのが、日本の野生マウスだった。
コンソミックとは、1本の染色体だけが、他のものとは異なる系統に由来する状態を指す。例えば1番染色体だけが100%MSM由来で、他の染色体はすべてB6由来という状態だ。城石先生は10年以上かけ、1番から19番までの常染色体と、X、Y染色体、そしてミトコンドリアDNAまで、染色体の半分程度がMSM 由来のものを含めて29もの系統をつくり出した。これらの系統が示す表現型を、もとのB6と比較すれば、どの染色体に関与する遺伝子があるか一目でわかるのだ。さらにこのマウスをもとにMSM由来の部分を狭めていくことで、すでに特定の表現型とリンクしたゲノム領域を400か所以上見つけている。
富士を見晴らす三島の地。そこで見つかったローカルなマウスは、今や世界で通用するツールになった。「あとは何をおもしろいと思うか、センスとアイデアだけですね」。10年以上かけてつくりあげた、遺伝学研究の基盤。それを柔軟な発想で利用できる学生が来るのを、城石先生は期待している。