一色 孝子 助教授(いっしき たかこ)

 細胞系譜研究室 一色研究室

しなやかな強さを秘めた研究者 学んできた全ての中で一番好きだから

若くして国立遺伝学研究所助教授のポストを得た一色助教授。一番の関心事は「リラックスすること」。研究室の主は、親しみやすい雰囲気の中に鋭い洞察力が光る。

だった。それが遺伝学との出会い。
「高校生になって、DNAと遺伝の話を生物の授業で聞いたんです。とにかくそれまで学んできた全てのことの中で一番好きだと思いましたね。遺伝法則は話がきれいだと思ったんですよ」。これをきっかけに、大学では生物系で遺伝学ができるところにいこうと一色助教授は決めたのだ。
「決まった形で多様な細胞が順序良く作り出されるシステムを遺伝学的に探っています。多様性が共通のシステムによって生み出されていることが面白い」。研究の魅力をこう話す一色助教授は、モデル生物としてショウジョウバエを用いて脳神経の研究を進めている。多様な種類と膨大な数の神経細胞が組み合わされた神経系。この複雑な系は、神経幹細胞と呼ばれる細胞から順次、必要な種類の神経細胞が効率良く産生されることで作り出されている。
「普遍的な遺伝子のスイッチシステムを解明することで、多様な分化のシステムを明らかにすることができるかもしれない」。
高校生のときに感動した遺伝学。一色助教授は今も魅了され続けている。
自分の世界を持ち、こつこつと積み重ねる。
ショウジョウバエに熟知した一色助教授だが、大学院までは酵母を用いた研究を行っていた。留学して研究内容を変えた当時は結果がでなかったという。「研究成果がでるまでは、どうしようという感じなんです。でも、移った先の研究室ですぐにある程度の成果がでたとしても、その多くの場合は研究室のその時の流れにうまく乗れただけ。どんな成果も周囲のサポートなくしては得られませんが、より自分のものという形で成果を出すにはもっと時間がかかって当然ですよね」。
日々の研究は地道な活動だ。あっと驚く結果は一朝一夕に出るものではない。ある日訪れるブレイクスルーも、「振り返ってみれば日々の研究の積み重ねの結果だ」という。助教授になっても生き生きと顕微鏡を覗き、研究はおろそかにしない。
「第一に自分の世界を持っていること。そして、その世界の中で次なる新しい概念を出そうと努力している人」。一色助教授の考える研究者像だ。
研究者になりたいと思ったことはない
研究者としての王道を着実に歩んでいるかのように見える一色助教授。だが、その言葉は意外なものだった。
「他の人よりぼーっとしているくらいで、ただこれが面白そうというのを選択し続けた結果です。研究者になりたいと構えて考えたことは一度もありませんでしたね」。しかし、実験により荒れた指先が、研究者になるべくしてなった人だと感じさせる。「細かいところをじっと観察したりするのが好きで、性格的にはしつこいかもしれない。これはこんなもんでいいだろうと効率を考えてさっさっと終わらせると いうことができないんです」。自身のことをこう分析する。興味をもったことには常に全力投球。「これどうなっているんだろうと気になると、あれやってみよう、これやってみようとなるのがよかったのかな」。
なぜ研究者になれたのか?と聞くと、首をかしげてはにかむ。 一色助教授は、これからも変わらぬスタイルで研究の道を邁進する。
(記事:株式会社リバネス 2006年インタビュー)

  • X
  • facebook
  • youtube