堀川 一樹 准教授(ほりかわ かずき)

 多細胞社会研究室 堀川研究室
1973年生まれ 京都大学大学院理学研究科博士課程修了、東京大学大学院理学系研究科博士研究員(のちに助手)、北海道大学電子科学研究所特任准教授。2010年より現職。 受賞歴/2007年文部科学大臣表彰若手科学者賞 趣味/山歩き

社会性アメーバの協調行動を司る原理とは?

細胞が集まって臓器を作ったり、個体が集まって社会を作ったり・・・。生き物には、様々なレベルで 「協調現象」 が見られる。そうした協調現象を生み出す仕組みとはどんなものか?これを調べるには、細胞や分子を全体から切り離すといった還元的な見方ではなく、要素の働き方をを集団のまま理解する必要がある。堀川研究室は「社会性アメーバ」という魅力的な生物を使い、計測・モデリング・検証という循環的なアプローチで、細胞社会のルールを読み解こうとしている。

協調現象を生み出す原理とは?
研究室で堀川准教授が取り出したのは同じ形のメトロノーム3つ(画像)。同じ目盛りに調節して、同時にスタートさせる。しかし、しばらくするとリズムが揃わなくなってくる。「どんなに目盛りを合わせても、機械的な差異のせいで全く同じにはならないんです。でもこれを揃わせる方法があります。」 堀川准教授は、サインペンを2本机に並べ、その上に板を載せた。そこに3つのメトロノームを載せてスタートさせると不思議なことに、3つのリズムはぴたりと一致してずれなくなった。
「これは位相同期と呼ばれる現象です。振り子の揺れが板の動きを介して、他のメトロノームに伝わる。影響を受けた振り子の揺れも、もとの振り子に返ってくる。その結果、勝手にリズムが揃うんです。」
堀川准教授は、このような現象の根底にある原理に強く惹かれるという。
「僕の研究のモチベーションの根底にあるのは、リズムです。リズムを持った細胞がたくさん集まると、心臓や脳そして人間の社会のように協調現象が生まれるんですけど、その原理や、生き物にとっての意味を明らかにしたいと思ってます。」
集団を全体として機能させる「相互作用のルール」を探る
生き物は様々な「リズム」をもっている。概日リズム、脳波、心臓の拍動、細胞分裂周期など、リズムを持つ細胞が集まることで様々な現象が起こる。例えば心筋細胞はそれぞれが勝手に拍動するが、集まると心臓という臓器を成し、規則正しく血液を送り出すことができる。神経細胞も1個だけを見れば、信号を受けると発火して別の細胞にリレーするだけだが、脳として協調すると高次の機能が生まれる。
「例えば、サッカーのスタジアムでみんなが興奮してくるとウエーブができたり、何千、何万のホタルが同調して明滅したりする。こうした集団の現象は、部品を一個取り除くと振動しなくなるなど『動かない機械』になってしまい、それ以上理解のしようが無いんですよ。それぞれの機械がちゃんと動作しているなかで『相互作用のルールだけを変えるとどのような集団行動が生まれるか』を研究しないといけないという問題意識が芽生えたんですね。集団をばらばらにするという方向性ではなくて、全体として動くままを、なんとかうまく扱うことで協調現象を理解したいと思いました。」
堀川研究室の研究対象は「社会性アメーバ」。キイロタマホコリカビやツユホコリカビなど、普通の森にいる単細胞生物だ。社会性アメーバは協調現象の宝庫だという。
研究内容紹介「細胞集団において どのような秩序が生まれるのか?」
もっと様々なコミュニケーションを見てみたい
堀川准教授は、新たな情報伝達可視化ツールを鋭意開発中だ。
「今研究されている系は単純な系が多いんです。例えば人間社会に置きかえてみると、日本人だけとかアメリカ人だけとか、あるコミュニティだけの研究です。でも異なる文化が相互作用すると、新しい何かが生まれることが期待できます。自然界では様々なアメーバが複雑な社会を形成し、生存に適した集団行動を行っているはずです。したがって、種内だけででなく種間のコミュニケーションも可視化、操作したいと考えています。例えば、2つの集団の境界にいるものが通訳として働くと、全体として新しい集合秩序が生まれてくる可能性があります。そういうのをアメーバを使って、細胞の社会実験をしてみたいと思っています。」
(田村佳子 インタビュー/高橋健太 動画作成 2011年)

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