深川 竜郎 教授(ふかがわ たつお)

分子遺伝研究部門 深川研究室
1995年総合研究大学院大学 生命科学研究科 遺伝学専攻博士課程修了 オックスフォード大学博士研究員、国立遺伝学研究所助手、総合研究大学院大学助教授、国立遺伝学研究所准教授をへて2008年より現職 2002年日本遺伝学会奨励賞受賞、2005年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞
趣味/愛犬との散歩、芝刈り、料理、飲酒

細胞分裂の謎に迫る

セントロメアは染色体の真ん中にある細くくびれた部分で、細胞分裂をするとき、娘細胞に染色体を均等に分配するための重要な役割を担っている。ゲノム配列の解読が進み、染色体の構造や機能が明らかになってきたにもかかわらず、セントロメアには不明な点が多くゲノム上の「未開の場所」といわれてきた。分子遺伝研究部門の深川竜郎教授は、セントロメアの構造を解き明かすことで、「細胞分裂するとき、どうして均等に染色体を分配できるのか」という謎に迫った。

染色体の分配を支配するセントロメア
細胞分裂では、生物の全遺伝情報を正しく複製し、分裂する娘細胞にその情報を分配することが重要である。遺伝情報を担うのが染色体で、その数は、生物の種類によって異なる。細胞が分裂するときは、まずそれぞれの染色体が複製されて2倍になる。分裂期には、2倍になった染色体が、細胞の両端からのびた紡錘体に捕らえられ、娘細胞に均等に分配される。どうして、細胞は間違えずに均等に染色体を分配できるのだろうか。
「細胞分裂するときに正確に染色体を分配するために、セントロメアが重要な役割を担っています」と深川教授がセントロメアのはたらきを説明してくれた。
紡錘体が結合する染色体の領域をセントロメアという(図1)。そのはたらきに異常が生じると、染色体がうまく分配されず、ダウン症やがん化を引き越こしたり、細胞分裂が止まったりする。
「染色体を分配し、細胞分裂を進めるためには、染色体上にきちんと機能するセントロメアが形成されることが必要なのです」という。
繰り返し配列がなくても機能する
染色体は、DNAとヒストンというタンパク質からなる。DNAは、ヒストンに巻きついて、凝縮したヌクレオソームという構造をしている。セントロメアはもちろん染色体の一部だが、他の染色体とは異なり、付近にはヒストン以外の多くの種類のタンパク質が結合している。そこで、そのタンパク質が集まって、紡錘体が結合するための構造をつくり、さらにタンパク質と紡錘体が相互に作用することで染色体を均等に分配しているのではないかとされている。その機構を解明しようと、世界中で研究が行われていたものの、塩基の繰り返し配列が他の部分より際立って多いなどの特徴からセントロメアの解析は難しかった。
たとえば、ヒトのセントロメアでは、1000回から1万回も繰り返される特定の塩基配列がある。多くの研究者は、この繰り返し配列がセントロメアの形成に必要だと考えていた。ところが、この繰り返し配列と無関係な染色体の部分がセントロメアと同じはたらきをもつことがオーストラリアで発見され、その考えがくつがえされてしまった。
深川教授らは、ニワトリ由来の細胞を用いて、難解なセントロメアの塩基配列を解読することに挑んだ。セントロメアに特異的に結合しているタンパク質に着目し、そのタンパクを目印にセントロメアとして機能している部分を集め、最先端の装置で分析し、世界で初めてセントロメアの塩基配列を明らかにした。
「塩基配列を調べると、ニワトリの39対の染色体のうち、3種類の染色体には繰り返し配列がまったく見られなかったのです。でも、繰り返し配列のあるセントロメアも、繰り返しのないセントロメアも機能の違いは見られませんでした」。深川教授らは、DNAの繰り返し配列がセントロメアの形成に関係ないことを塩基配列から示した。
新たにみつかったタンパク質の構造
深川教授ら日米の3グループは、細胞周期を通じて、セントロメア領域に局在している16種類のタンパク質のネットワークが重要なことを明らかにした。これらのタンパク質群は、細胞周期を通じてセントロメアに局在することから、深川教授らは、これらをCCAN(構成的セントロメアタンパク質群: Constitutive Centromere Associated Network)タンパク質と名付けた。深川教授らは、CCANタンパク質のなかで、CENP-T-W、CENP-S-Xというタンパク質複合体に注目した。
「これまで、CENP-Aというセントロメアに特異的に結合するタンパク質がセントロメア形成の引き金をひくと考えられていました。ところが、これらタンパク質複合体は、CENP-Aとは、独立にセントロメアへ結合したのです」。
そこで、CENP-T-W、CENP-S-Xそれにこれらの複合体同士が結合したCENP-T-W-S-Xのあわせて3種類のタンパク質複合体の結晶構造の解析を行った。その結果、これらの複合体は、ヒストンによく似ており、ヌクレオソームと同じようにDNAが巻きついた構造をしていることを突き止めた。
「セントロメアは、通常の染色体の構造と違う、タンパク質複合体とDNAからなる独自の構造をもっていました。変異細胞を使った実験から、この構造が染色体を均等に分配するのに必須であることがわかりました」。こうして、深川教授らは、セントロメアに新しい構造をみつけた。
セントロメアは進化にも重要
「セントロメアの研究をするきっかけは、ポスドクで留学した時、人工染色体の研究をしたことです」と深川教授は振り返る。あれこれと実験を試みたもののうまくいかず、まずは染色体をきちんと調べるべきではないだろうかと、セントロメアの研究を始めたのだった。その時、学んだ実験技術がセントロメア研究に活かされたという。さらには、細胞工学の手法のみならず、構造生物学や生化学などの方法を駆使してきた。「さまざまな手法を使って研究を進められるのは、大学院生のころ、遺伝研で実験技術を工夫することを身につけさせてもらったことにあります」と話す。
「この成果をもとに、CENP-Aをはじめとするセントロメアのタンパク質の相互作用を明らかにし、構造を明らかにすることで、染色体を均等に分配するしくみを解明したい」と熱く語る一方、常に細胞分裂という大きな現象を意識しているという。「染色体の分配が失敗すれば、細胞は死んでしまいますが、うまく生き残れば染色体に変化が生じ、進化につながります。セントロメアの機能は、種分化や進化を考える上でも重要なのです」。
深川教授は、大学院修了時から20年近く、セントロメアの研究を続けてきた。「研究だけでなく、なんでもやり始めたら面白くなっちゃうんです。面白くなれば全力投球です。それでなければ、続きませんからね」と笑う。「セントロメアのおもしろさをたくさんの人に伝えたい」と締めくくった。
(インタビュー 2013年3月)
  パンフレットダウンロード(1.28MB)

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